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ティーナの酒場を目指して僕ら一行は歩く③

「いや、何か……女の人の―――歌声が聞こえない?」 「……女の人の歌声?ミストには聞こえないけど、誠とサンには聞こえる?」 「「いや……聞こえないな」」 サンと誠がほぼ同じタイミングで、全く同じ言葉をミストの問いかけに対して答える。その間も―――ナギはジッと怪訝そうな様子で、森の地面に所々置いてある物を見つめ続けていた。 「これさ……一見すると、ただの石だけど―――多分、誰かのお墓だよね?だって……名前が刻まれてるし、花も供えてあるよ」 「―――墓?何だか不自然な場所にあるな。まあ、いい……こんな不自然な墓の事よりも前に進む事の方が重要だ。いい加減、先に進まないと洒落にならないぞ。夜は魔物共が最も活気づく時間だ」 神妙な顔つきで口を開くサンの言い分に納得した僕らは再び森の中を歩く事に専念することにした。 先程、僕にだけ聞こえてきた女性の美しい歌声のこと―――。 森の中に不自然と並んだ誰かの不自然な墓石のこと―――。 なんとなく、その事が気にかかった僕は―――もう一度、怪訝そうに不自然な墓石の方へチラリと目を向けてから、歩きを再開した皆の後を急いで追いかけるのだった。

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