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ティーナの酒場④

「――――だ、駄目っ!!」 何故、サンが看板娘であるティーナを攻撃しようとしているのか訳も分からず呆然としていたのだが―――とうとう、サンが構えていた弓に込めている力を緩めて矢を此方に振り向きもしない彼女へと放とうとしたため、ハッと我にかえった僕は慌てて大声をあげた。 僕が急に大声をあげたせいでカウンターへと背を向けていたティーナさんが振り向くのと、サンが忌々しそうに舌打ちをしてから弓を構えるのをやめて僕をジロリと睨み付けるのと――ほぼ同時に起こるのだ。 「…………何故、私を止める!?この酒場に漂う異様な空気と―――冒険者達の異変に気付いていない程に……お前は愚かなのか?」 「まあまあ、落ち着きなよ……サン。それと、マコトの恋人くん…………周りの様子、よく見てみなよ……さっきまで酔っ払ってた人達の様子がおかしくなっているの――ー気付かない?」 恐ろしい顔でサンから睨み付けられ、萎縮してしまった僕を慰めるように優しい口調でミストが話しかけてきてくれたため―――僕は黙って彼の言う通りに、つい先ほどまで周りで酔っ払い騒ぎたてていた冒険者らしき男達へと目線を向ける。 ーーー確かに、今さら気付いたのだが……サンやミストが言うように、彼らは僕らがこの酒場に来たばかりの時とは何となく違う気がする。 賑やかな笑い声は来たばかりの時と同じだ―――。 大声でティーナさんを誉めちぎっているのも来たばかりの時と同じだ―――。 しかし、ひとつ違う事があった。 彼ら全員の体が段々と半透明になっており―――飲んでいたと思われた薄い赤紫色の液体が床にバシャバシャと音をたてながら溢れていく。 「そこの怖そうなエルフのお兄さん―――貴方は、あたしがこの液体を使って貴方達に危害を加えると思っている……だから攻撃しようとした、それに―――間違いはないわね?」 「―――ああ」 「―――安心して、と言った筈だけれど……まあ、信じられないのは仕方ないわね。でも、本当に貴方達に危害を加える気はないの―――少なくとも、あたしは。それは別にして、唐突で申し訳ないけど、この辺りの住人じゃない貴方達に……お願いがあるの。この酒場の呪いを―――解いて欲しい。だから、こんな事をしているのよ……この酒場には、ある秘密があるの。」 ふいに、今まで天使のような美しい笑みを浮かべていたティーナさんの顔に陰りがさし、嗚咽を漏らしながら今の状況を理解出来ない僕らへとポツリ、ポツリと言ってくるのだった。

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