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夜の海へ②
※ ※ ※ ※
「ウィリアムさん……ウィリアムさーん!!」
「……ったく…………こんなに暗いと――ろくに前も見えねえな……それにしても、ウィリアムってニンゲンは――足が速すぎるだろ」
僕らは酒場を出ると暗い夜道に四苦八苦しながらもウィリアムさんが駆けて行ったであろう痕跡をたどりつつ、不気味な夜の森の中を歩いて行く。不気味な鳥らしきものの声がこだまし、周りにはフヨ、フヨとウィルオーウィスプの青白い光の玉が浮いている。ティーナさんから特殊ゴーグルを受け取っておいて――正解だった、と改めて思うくらいに辺りはウィルオーウィスプの青白い光に包囲されているのだ。
そんな夜の不気味な森の中を――先程からウィリアムの名前を呼びながら歩き続けているのだが、ナギの言う通り――ろくに前も見えないような暗い夜道なうえに、思ったよりもウィリアムさんの足が速かったので――なかなか彼の姿を見つけ出す事が出来ない。
すると、その時――、
「~♪♪~♪♪♪~♪~♪♪~♪♪♪……」
僕らが歩みを進めているのと逆の方向から微かに歌声が聞こえてきた。ティーナさんの酒場に着く前に、僕が聞いたような気がしていた歌声とソックリだったため驚きを隠せない。
しかも――今度は僕以外の皆にも聞こえてきたらしく、一斉に歌声が聞こえてきた方向へと目線を向ける。
その歌声が聞こえてきたのは――海がある方向だった。
「あの歌声――もしかして人魚達!?以前、マコトの恋人くんが聞いた気がするっていうのは……人魚の歌声だったのか。とりあえず、ウィリアムっていうニンゲンがいるかもしれないから――耳を塞ぎながら行ってみよう?」
「……うん」
ミストがどことなく焦ったような表情を浮かべながら僕らへと言ってくる。そして、ミストの提案どおり両手で耳を塞ぎながら歌声が聞こえてきた海の方向へと慎重に歩いて行く。
「やっぱり、いた!!ほら、あそこ……っ……」
「ウィリアムさん……っ……!?」
ようやく、僕らが歌声の聞こえてきた海に着いた時――ウィリアムさんは正に今、真っ暗な海の中へと飛び込もうとしている所なのだった。
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