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夜の海へ③
「ΨΩΦЙΦΦΨΩβπ!!」
ウィリアムが暗い海の中へ躊躇なく飛び込もうとしているのに気付いたミストが慌てて魔法を唱える。すると、ウィリアムの体がフワッと空中に浮き上がり――ギリギリの所で海の中へと飛び込もうとしている危険な行為を回避出来た――かに……思えた。
「~♪♪~♪♪♪~♪♪♪~♪~♪♪~!!」
「……っ…………!!?」
ウィリアムの体を浮遊魔法で空中に浮かせたまま、とりあえず安全な場所まで誘導しようとしていた僕らだったが、ふいに今までとは比べ物にならないくらいの人魚達の魅惑の歌声が辺りに盛大に響き渡る。鼓膜が破れてしまうのではないかと思う程の大音量の歌声を聞くまいと咄嗟に僕らは両耳を塞いでしまった。
すると、それを待っていたといわんばかりに墨汁を塗りたくったかのように真っ暗な海の中から蛸の足みたいな触手が勢いよく現れると、そのまま浮遊魔法で浮かんでいたウィリアムの足を掴み、ズルズルと海の中へ引きずり込んだ。
――バシャッ……!!
頭より先に体が動いていた――。
僕はクラーケンらしき触手によって暗い暗い海の底へと引きずり込まれようとしているウィリアムを助けるために勢いよく海の中へと飛び込む。
「優太……優太……っ……!?」
少し離れた場所で――愛しい誠の慌てている声が微かに聞こえてくる気がした。
※ ※ ※ ※
「優太……優太……っ……早く……早く助けないと……!!」
「まずい……マコトもウィリアムとかいうニンゲンみたいに人魚達の歌声に――惑わされてる……早くあの歌声を何とかしないとっ……」
「そ、そんな事を言ったって……あの喧しい歌声を止めさせるには……どうすりゃいいんだよ!?」
優太がウィリアムを助けようと海へ飛び込んだのを見て、目は虚ろになり――ぶつ、ぶつと呟きながら自分も海へ飛び込もうとする誠。
そして、何とかしてクラーケンらしき触手の周りを取り囲むように泳いでいる人魚達の耳障りな歌声を止めさせるにはどうすればいいのかと考え込むミストとナギ。
そんなミスト達を嘲笑うかのように――クラーケンらしき魔物が海の中から姿を現す。
顔がある上半身は可愛らしいニンゲンの幼女のような姿――。
下半身は細長い蛸の足のようにヌメヌメとした何本ある触手を蠢かしている異様な姿――。
そして、その細長い蛸の足のようにヌメヌメとした何本もの触手で囚われの身となっているウィリアムを決して離すまいと力強く締めあげる。
「…………パ……パ……」
クラーケンがポツリと言葉を発した――あまりに小さな声であることと、耳障りな人魚達の歌声に邪魔されたせいで――ミスト達にその言葉が届くことは叶わなかった。
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