51 / 713
夜の海へ⑤
――ヒュッ……
――グサッ……!!
サンが放った弓矢は狙い通り――クラーケンの喉元へと真っ直ぐに飛んで行く。
――しかし、
「くっ……私の弓矢だけでは――威力が足りないか!?もはや……これまでか。あのクラーケンの忌々しい偽物の歌声を止めない限り、我々に勝ち目もないも同然……っ……」
サンが放った弓矢はクラーケンの喉元に当たり、多少のダメージを与えて先程よりも歌声の声量は小さくなったものの尚も魅惑の歌声は辺りに響いている。
その時――、
「ΦπβΩΨΨΨΦπЙ!!」
ふと、真っ暗な海にクラーケンの魅惑の歌声とは別の声が響き渡る。すると、クラーケンの喉元が突然弾けるように爆発したのだ。クラーケンの喉元は大きな黒い穴がポッカリと開き、その黒い穴からはヒューヒューと苦し気に息を漏らす音が聞こえてくる。
そのクラーケンの苦しげな様子を見て、この調子では――もう歌声は響かせられないだろうと予想したミストとサンは先程両耳に詰めていた小石を外す。
「――ナギ、お前……正気を取り戻したのか?」
「ああ、あんたのキツーイ一撃が効いたぜ……それよりも、これであのクソッタレなクラーケンとやらは自慢の歌を歌えねえはずだ……俺様達は火と弓で地上から攻撃しようぜ」
「そういえば――ナギと同じように錯乱してたマコトはどうなったの?ミストには――マコトの姿が見えないけど……」
ナギが正気を取り戻してから渾身の爆発魔法をクラーケンへとお見舞いすると、サンとミストは仲間の無事を確認してホッとしつつも誠がどうなったのかという事をナギへと尋ねる。
「……はあ?そんな事、俺様が知るかっつーの!!大方、お人好しのマコトの事だからウィリアムとかいうニンゲンを助けるために海に入って行ったんだろ――マコトの恋人くんみてえにな……それより、海の中の事はマコトと恋人くんに任せて俺様達は地上から攻撃するのが最善の策だろうが――クラーケンが弱っている今こそチャンスだ」
「確かに――ナギの言う通りだよ、サン。ミスト達は地上からクラーケンを攻撃しよう……きっとマコトやマコトの恋人くんなら――大丈夫だよ♪」
「……ふん、そんな当たり前の事はお前達に言われずとも――分かっている」
そう言い合いながら――サン、ナギ、ミストはそれぞれ武器を構えて弱っているクラーケンの次なる攻撃へと備えるのだった。
ともだちにシェアしよう!