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再び、酒場へ ※誠視点

「本当は――すぐにでも、あなた達に料理や普通のお酒を振る舞いたいところだけれど、それよりもウィリアムとこの男の子の看病が先だわ……このままじゃ凍え死んじゃう……」 「――実は、あたしの酒場は宿屋も兼ねているの。クラーケンを退治して、ウィリアムとアンデッドの皆を救ってくれたお礼にこの男の子の体調が良くなるまで特別に無料で泊まらせてあげるから、是非泊まっていって……それくらいあなた達には感謝しているの」 クラーケンに捕らえられていて、長い時間――夜の海に沈んでいたせいで、グッタリと横たわったままの優太とウィリアムという男の体は氷のように冷たくなってしまっている。 ――このまま、何もせずに二人を放置していれば確かにティーナの言うとおり――二人の命が危ういかもしれないのだ。 俺と3人のエルフ達は心の中で申し訳なく思いながらも、ティーナの優しい言葉に甘えさせてもらい――そのまま酒場の宿へと泊まる事となったのだった。 ※ ※ ※ 【ティーナの酒場・二階】 その後、俺と3人のエルフ達はティーナから酒場の二階にある宿泊部屋へ案内されたのだが、一つの部屋は3人が余裕で泊まれる大きな部屋で、もう一つの部屋はベッドが一つしかない個室なため――必然的に俺と気を失ったままの優太はベッドが一つしかない個室へと泊まる事となったのだ。 ――ガチャッ……!! 気を失ってグッタリしたままの優太の体を床に落とさないように必死で抱えながら慎重に廊下を歩いていくと、そのまま慎重な手つきで部屋の扉を開ける。 そして、窓際に置かれているベッドへと――ゆっくりとした足取りで歩いていくと、優太の体を布団の上へとソッと横たわらせる。 (優太……優太――お願いだから……無事に目を覚ましてくれっ……じゃないと、俺は――っ……) 俺は余りの不安から無意識の内に眉を潜めつつ、優太が目を覚ます事を心の中で切に願いながら氷のように冷たくなってヒンヤリとした彼の両手をぎゅっと握りしめるのだった。

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