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目覚めの朝②
「……ゆ…………う……た……」
ふいにスヤスヤと眠っている筈の誠の口から僕の名前が聞こえてきて、再び心臓が口から飛び出てしまうのではないかと思わざる得ない程にドキドキしてしまい、未だに目を覚ます気配すらない誠の方へと目線をチラッと向ける。
「マコトのこと……ユウタの愛で起こしてあげたら?まあ、いずれにせよ……ミストはお邪魔みたいだから下にいるね?それと、体調が良くなったなら……下まで来てよ――ミストもユウタに話したい事があるからさ」
相変わらずニコニコとイタズラ好きな子供っぽい笑みを浮かべながらミストは、そのまま部屋から出て行ってしまった。
ミストが部屋から出て行く後ろ姿を気まずそうな表情を浮かべながら見送ると、内心ではドキドキしつつも僕は少し強めに誠の体を揺さぶって起こそうとしてみる。
「ま、誠……起きて……起きてよ――」
「ん……ゆ、優太……お前、ようやく目を覚ましたのか!?良かった……お前が無事で……っ……」
すると、誠が驚いたような表情を浮かべながら勢いよく体を起こすと僕の体を強く抱き締めてきたので、その余りの嬉しさに――この場で気を失ってしまうんじゃないかと思ったのだけれど、こんなチャンスは二度と来ないかもしれないと感じた。
そして、僕を抱き締めてきた大好きな誠の体を僅かに遠慮がちとはいえギュウッ抱き締め返すのだった。
――そんな僕と誠の様子を扉の隙間から尚もイタズラっ子のような愉快げな笑みを浮かべつつコッソリと見つめる3人のエルフ達。
しかし、お互いの体を強く抱き締め合う僕らには――その事を気付ける筈となかったのだった。
※ ※ ※
その後、病み上がりとはいえ誠の看病のおかげで、万全とはいかないまでも少しは体調が良くなった。
そのため、僕は目を覚ました誠と共にミスト達が待っているであろう酒場の一階へと行くためにギシ、ギシと歩く度に軋む階段を降りていく。
そして、その酒場の一階へ降りてからすぐに嬉しそうに駆け寄ってきたミストが、僕は気を失っていたという事実と――その時に何が起こっていたのかを丁寧に分かりやすく教えてくれる。クラーケンも無事に退治できた、と知って――僕は心の底から安堵する。
看板娘のティーナさんは、やっぱりとても良い人で――、
「良かった……体調は少し回復したみたいね……でも、念のため――もう少しこの酒場に泊まっていって……病み上がりだし、油断は出来ないものね」
と、優しくて太陽のように眩しい笑顔を僕へと向けながら言ってくれるのだった。
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