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二人きりの夜①

※ ※ ※ 「いらっしゃいませ~……ウィリアム様から貴方達のお話は聞いております~……えっと……お二人様で宜しいでしょうか~?」 その店に入った途端に明るいけれど妙に間延びしてるエルフのお姉さんの声が聞こえてくる。ここは、今はすっかり本調子となり元気を取り戻したウィリアムさんが経営する無差別種族風呂のお店で僕と誠は二人きりで此処へと足を運んでいたのだ。 ――そもそも、此処に足を運ぶ事になったのかと、今から少し時が遡る。 ※ ※ ※ 僕と誠が目を覚ました後で共に一階へと降りた時、既に正気を取り戻していて、僕らが最初に出会った時とは別人のようになったウィリアムが人懐っこい爽やかな笑みを浮かべつつ此方へと歩み寄ってきた。 そして、少し大袈裟なのではないかと思う程に感謝された後で僕と誠に二枚の紙切れのような物を手渡してくれたのだ。 【無差別種族風呂ノ店・優待券】 無差別種族風呂ノ店とは――何なのだろうか? と、僕が考え込んでいると傍らにいる看板娘のティーナが教えてくれた。なんでも、ウィリアムは商才があるらしく――数々の店を出しているそうなのだが、これはその内の一つで辺境の貴族や王族御用達でもある人気店なのだそうだ。 まさか、ウィリアムさんがそこまで有名な店を手掛ける人だと思ってもみなかった僕は途端に緊張してしまう。 「そ、そんなっ……こんな貴重な物を頂くなんて――流石に申し訳ないですよ……ウィリアムさん」 「いいや――こうでもしないと、オレを救ってくれたアンタらに示しがつかねえ……それに、オレの風呂屋なんだから遠慮はいらねえよ。だから、どうか――受け取ってくれないか?」 ウィリアムさんに真剣に言われてしまったため、受け取らない訳にいかなくなってしまった。流石にウィリアムさんの行為を無下に断ってしまっては――それこそ失礼に値してしまう。 こうして、僕と誠はウィリアムさんが経営するという【無差別種族風呂ノ店】へと足を運ぶ事となったのだ。

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