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二人きりの夜③

「お、おい……優太――大丈夫か?」 「う、うん……大丈夫、大丈夫……って……あの、僕がボーッとしていたせいでぶつかってしまって――すいませんでした」 誠が慌てた様子で床にしりもちをついてしまった僕を引き上げようとしてくれたが、それよりも先に僕の不注意のせいでぶつかってしまった金髪の男の人へと緊張しながら申し訳なさそうに必死で謝る。 「まったく……本当にドンクサイ奴だな――お前には目がついていないのか?」 「ご、ごめん……なさい――ごめんなさい」 そのニンゲンの男の人は腰くらいまで伸びているキラキラと輝く金髪を後ろで一纏めにしていて端正な顔立ちをしている。僕達が前にいた世界(ダイイチキュウ)風に言えば――イケメンいうやつなのだろう。 そして、床にしりもちをついてしまったままの僕を見下すように氷のように冷たいが海のよう透きとおっている青い瞳を此方へと睨みつけてくる。すると、ブツブツと文句を言いながらも床にしりもちをついたままという情けない格好を晒す僕の体をグイッと引き上げてくれるのだ。 その金髪の男の人から、ぶっきらぼうに引き上げられた僕は――誠が慌てた様子で彼から僕の体を引き離すまで、金髪の男の人のあまりの格好よさに少しだけ見惚れてしまっていたのだ。 「……おい、まだ中にいるアンタらに気付かずに扉を開けてしまったのは俺だ――。俺が悪かった――それと、優太を引き上げてくれたのは有り難いが……いい加減、優太から手を離してくれないか?」 「――何だと……!?それが、このドンクサイ奴を引き上げてやったワタシに対する態度か!?ふん、まあ――いい。おい、気分を害したからさっさと村へ戻るぞ……」 僕が金髪の男の人にポーッと見惚れてしまっていると、ふいにすぐ横にいる誠が普段よりも数倍は低い声でその金髪の男の人へと謝るのだ。 すると、その金髪の男の人は怒った様子で僕らへと言い放つと僕の体を引き上げてから今まで握ったままだった手を少し乱暴に離すと、僕らのやり取りを見てハラハラしているエルフの男の子へと乱暴な口調で話しかける。おそらく、そのエルフの男の子は金髪の男の人のパートナーなのだろう。 その後、明らかに不機嫌そうな表情を浮かべている金髪の男の人をエルフの男の子が必死で宥めながら服を着ると――彼らは足早に脱衣場から出て行ってしまうのだった。 ――まるで、嵐が去ったかのように先程までは比較的賑やかだった脱衣場が静寂に包まれる。

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