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二人きりの夜④
「――あれが噂の落ちぶれ貴族様か……。確か、よそ者に城ごと土地を奪われてプライドズタズタって話だよな~。確かに、あの態度じゃ噂にされて村人達から笑われてもおかしくはねえな」
「――しっ……!!落ちぶれてるとはいえ、あの貴族様の耳に今の会話が知られたら――何されるか分からねえぜ?ただでさえ、プライドズタズタで気が立ってるっていうのに――って……おい、小僧共……何こっち見てんだ!!?さっさと中に入りやがれよ――ったく、面倒ごとに巻き込みやがって……」
金髪の男の人とエルフの男の子が去った後、少しの間は静寂に包まれていた脱衣場内だったが、ふいに隣にいるニンゲンの冒険者らしき二人の男達がヒソヒソ声で立ち去っていった金髪の男の人に対する噂話をし始めたため思わずその噂話に興味を抱いてしまい聞き耳をたててしまう。
しかし、噂話をしていた冒険者らしき男達に気付かれてしまい鋭く睨みつけられてしまったため深々とお辞儀をしてから――すぐに誠と共に個室風呂の中に入って行くのだった。
※ ※ ※
【個室風呂内】
「あ、あのさ……誠、なんか怒ってる?」
「…………別に」
個室内に入り、僅かにピンク色に染まっている湯船に浸かった僕と誠だったが――なんとなく誠が先程から怒っているような気がして、おそるおそる尋ねてみる。
「…………」
「…………」
誠にキッパリとそのように言われてしまうと、どんな風に反応していいのか分からず黙り込んでしまう。
個室風呂の中に――静寂が包まれる。
「あ、あのね……僕、鈍感だから――誠がどうして怒っているのか本当に分からなくて……だから、誠の口から教えて欲しいんだ……」
「優太……お前、本当に……どうして俺が怒っているのか分からないのか?」
個室内に包まれる静寂に耐えきれず僕は遠慮がちに、やっとの思いで誠へと言う。すると、誠は呆れたような表情を浮かべながら僕へと尋ねてくる。
「ご、ごめん……本当に分からないの。だからっ…………」
「じゃあ、どうして俺が怒ったか――教えてやる……ただし、抵抗はするなよ?」
僕は呆れたような誠の問いかけに対して、心の底から申し訳なさそうに答える。
すると、必死で謝っている途中で――急に誠から力強く抱き締められ、まだ僅かに怒っているのか低い声で耳元で囁かれるのだった。
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