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ピクシーの導き③

と、そんな時――、 ――グルルッ……グルッ…… ――グルル……クルルッ……!! 不意に、どこか近くから――飢えに満ちた狂暴な獣のような鳴き声が森一帯に響き渡り、びりびりと木々と僕らの体を震わせるのだった。 「こ、この鳴き声……まさかっ……」 「おいおい……こんな狭い場所でワーグの群れに襲われるなんざ……冗談じゃねえっ……!!」 「この状況は――かなり、まずいぞ……既に我々はワーグの群れに……囲まれている」 ――グルル…… ――グル、グルル…… 飢えに満ちた狂暴な獣の鳴き声が僕らのすぐ近くで聞こえてきた時、三人のエルフ達が慌てふためく。 ――そんな僕らを値踏みしているかの如く草村から幾つものギラギラと輝く血のように真っ赤な瞳。 【ワーグ】――別名は魔狼。 それも、いつだったか――想太の口から愉快げに語られた事がある言葉だ。獰猛な性格でビロードのように真っ黒で美しい毛で覆われていて、その体はニンゲンやエルフよりも遥かに大きい。また、賢さもあり――そして、必ず群れで行動するダイイチキュウでいうところの狼に 似ている魔物だと想太ら嬉々として教えてくれたのだ。 ワーグの恐ろしいところは――ニンゲンや他の種族には決してなつかず――とても狂暴だというところだとも、かつての想太は言っていた。 ――グゥルルッ…… ――グガァァァーッ……!!! ふいに、ワーグの群れの中にいる一匹が大きな唸り声をあげたかと思うと急に大きな口を開けて、長くて鋭い牙を剥き出しにしながら食らい付こうとナギに向かって襲いかかってきたのだ。 それを見逃さなかったサンが咄嗟にナギの体を突飛ばしたため、ムシャムシャと食らい付かれるという最悪の事態は阻止できたものの狂暴で獰猛な――そして執念深いワーグは決して獲物である僕らを逃すまいと赤い目を光らせながら唸り声をあげている。 「――っ……その忌々しいピクシーに着いて行くのなら、さっさと行け!!こいつらは――我々だけで何とかする」 「サンの言う通りだ……行くなら、とっとと行きやがれ――ミスト……そいつらは頼んだぞ!?」 サンは弓矢を構えて、ナギは地面から起き上がり――己の武器である魔剣を構えながら、僕と誠――そしてミストへと言ってくる。 「で、でも……っ……」 「良いから――行けっ……」 僕が決意しきれず、動揺しきって慌てふためいているとナギとサンの大きな声が――ほぼ同時に重なり合う。 「優太……行くぞ――」 「マコトの恋人くん――仲間であるナギとサンの言葉を信じて!!だから、ミスト達は――先に進まなきゃ……」 情けない事だが、誠とミストの頼もしい声が後押ししてくれたおかげで、ようやく僕はワーグの群れに襲われているナギとサンをその場に残し、ピクシーの姿を追いかけるという決心がついた。 そして、後ろ髪を引かれる思いだったが僕と誠――それにミストはナギ達がワーグの群れの気を引いているうちにピクシーの姿を追いかけるために細くて狭い獣道へと進んで行くのだった。

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