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呪われた城のホールにて①

※ ※ ※ 僕が――再び引田の前に謎の現象によって強引に戻されてから、どのくらいたったのだろうか。 ハッ……と気付くと――何故か、城のホールにうつ伏せになったまま倒れ込んでいる僕。しかも、体を必死で起こそうとしているにも関わらず自由が効かないせいで指にすら力が入らない。 ――そして、ふいに思い出す。 僕がナギのおかげで城の出口の扉の目の前まで逃げれたものの、哀しげな旋律を奏でるオルゴールの音を耳にした途端に燃えるような熱さに体全体が包まれてしまったこと。 その後、一度――引田が城のホールまで来ると、苦し気に呻く姿をジッと見つめてから意識が朦朧としている僕の体を抱き抱えて先程ライムスと共にいた部屋へと一旦戻してからナニかの液体を口移しで半ば強引に飲ませてきたこと。 引田によって液体を飲まされたことで、体を包み込む身を焦がすような耐え難い熱さからは解放できたものの、代わりに一瞬で目を閉じてしまう程に強烈な眠気が僕に襲いかかり、あっという間に眠りの世界へと誘われてしまったこと ――などの《今この場にいる前までの記憶》が、まるで走馬灯のように僕の頭の中に一気に押し寄せてきたのだ。 「……だ、だれ……か……誰か……助け……て……」 僕は《体を動かす》という普段は当たり前に行えている行為すら出来ないという半端ない恐怖と不安から――僕の目の前にあり、体さえ動かせれば其処から出る事など容易である出口の扉へと向かって弱々しい声で助けを求めてしまう。 しかし――僕の救いを求める弱々しい声は繰り返し呟いても広い城のホールに響くだけだ。 ――何度、救いを求めて呟き続けたのだろうか。 声を出している僕自身ですら分からない程に、何度も――何度も繰り返し救いを求めて姿さえ見えない《誰か》へと訴えていると――、 ギ――ギィッ…… ガチャッ……!! ぐったりと横たわり目を瞑って既に声を出す気力すらなくなっていた僕の耳に――《出口の扉》が開く重々しい音が聞こえてくるのだった。

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