しかし、すぐに金髪の男の人が僕の元へと駆け寄ってきた誠とミストの腕を掴んで僕の体を引き起こそうとしていた二人の動きを半ば強引に引き止めてきたのだ。 「いいか、エルフ……それに忌々しい人間の男よ――私の目を、見ろ……見るんだ！！」 すると、今までは割と冷静な声色で淡々と話して金髪の男の人が急に人が変わったかのように声を荒げ誠とミストに凄い剣幕で言い放ってくる。 (今までは空みたいに澄んだ青い色だったのに……あの金髪の髪の人の目が……急に血みたいに赤くなって……誠とミストを……見つめてるっ……何か……嫌な予感がする……早くー―あの人を止めないと……っ……) ずり、ずりと――かろうじて這いつくばりながら、彼に引き止められた誠とミストの元へと向かおうとしている最中に僕は誠達のある異変に気付く。 「……うっ……ううっ……」 「なっ……なんだ……これは……！？」 金髪の男の人の真っ赤に光る目を、直にマジマジと見つめてしまった誠とミストが急に苦しそうな呻き声をあげ、そのまま冷たい大理石の床へと倒れそうになる。しかし、どことなく満足げに笑みを浮かべている金髪の男の人が倒れそうになっている二人の体を咄嗟に支えたため誠とミストが床へ倒れる事はなかった。 だが、依然として誠とミストが苦しげに呻き声をあげている異変は終わる気配すらない。 「――私に従順なる者らよ……あの罪深き余所者に罰を与えよ。愚かなる余所者には磔が相応しい――遥か昔、罪なき哀れなる貴族を皆殺しにした男の絵画に……城泥棒の余所者をこの杭で磔にせよ」 金髪の男の人の激しい憎悪が含まれた低い声が――呪われた城のホール内に響き渡る。そして、その金髪の男の人の怒りに満ちた低い声に呼応するかのように――虚ろな表情を浮かべてふら、ふらとした足取りでゆっくりと、今の状況を理解しきれず怯えている引田の方へと歩み寄って行く。 「いいか、エルフよ……この罪深き城泥棒は怪我をして傷付いたお前の仲間のエルフを看病もせずに檻の中に閉じ込めた――」 「――そして、いけ好かない人間の男よ……この罪深き城泥棒はお前の恋人に散々厭らしい事をしていた。絵画に磔にする前に――存分に罰を与えてやるがいい」 その金髪の男の人の怒りに満ちた言葉に反応したのか、誠が怯えている引田へと近付くと、そのまま彼の首を躊躇なく絞め始める。その誠の顔付きは、普段とは別人のように激しい憎悪に満ちていて心の底から恐ろしいと思ってしまう。 (こ、このままじゃ……引田の命が……危ないっ……何とかして――金髪の男の人に操られている誠を……止めなくちゃ……) と、心の中では分かっていても――ずり、ずりと這いずる事が精一杯の今の現状を改めて理解した僕は――更に絶望的な感情に支配されてしまうのだった。