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リリーの記憶①

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「リリーよ……まったく、お前という奴は――。もっと、女らしく……しとやかには出来ないのか?」 「申し訳ありません……お父様ーー」 ハッ……と我にかえり、目を開けた時――僕の前には金髪の男の人がいた。少し年をとっていて、頭には宝石を散りばめた豪華な王冠を被っている。そして、何故かは分からないが――僕なその男の人から【リリー】と呼ばれていた。 ふっ……と目線を下に移してみると、水色のドレスを着ている事に気付いた。おそらく、【リリー】と呼ばれた女の子は――あの地下で出会った僕にしか見えない女の子の事なのだろう、と――さほど混乱もせずに理解できた。 しかし、そうはいっても――不思議な事に僕は何の躊躇もなく自然とその豪華な王冠を被っている男の人へと謝っていたのだ。まるで、僕が【リリー】という女の子になってしまったかのように――。これが、《追体験》というものなのだろうか? 「……まったく、これだから女は嫌なんだ――男ならば知恵だけでなく、力もあるというのに。我が息子、リアムよ……お前だけが我の宝だ」 「ありがたいお言葉でございますが――お父様……リリーを責めるのはお止め下さいませ。リリーにも誇れる事は――いくらでもありますよ」 「リアムお兄様……ありがとうございます。リリーはお兄様の妹に生まれて幸せですわ」 そこへ、ふいに――王冠を被って偉そうにふんぞり返っている男の人やリリーと呼ばれた女の子の他に黒髪の少しばかり憂鬱そうな笑みを浮かべている青年が現れる。それは、あの呪われた城のホールに掛けられていた肖像画の黒髪の男の人だった。 急に現れたリアムという男の人にニコリと優しい笑みを向けられ、僕の胸はギリギリと締め付けられるような切なさでいっぱいになってしまう。 この優しく微笑みかけてくれる黒髪のリアムという青年が、いくら理不尽な扱いに耐えきれず結果的に狂人になったからといって――城に火を放ち、貴族や使用人もろとも家族や……それに最愛なる妹までも手にかけてから自害したとは到底思えないからだ。

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