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リリーの記憶③
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またしても――場面が変わる。
「リアムお兄様……今日は戴冠式の日ね。お父様も病に伏せっておられるし――きっと、最高の日になるわ!!」
「ああ、そうだね……リリー。そうだ、悪いれれど……戴冠式が始まる前に――東の塔にこれを置いてきてくれないか?」
今度はリリーという女の子の口から【戴冠式】という言葉が発せられて思わずビクッと体を震わせてしまいそうになる。しかし、これはそもそもリリーという水色のドレスを着た女の子の記憶の中の出来事なので――無力な僕には、どうしようもないのだ。
「ええ、分かったわ……リアムお兄様――」
リリーという女の子の姿をしている僕は、優しく微笑みかけてくるリアムの言う通り――大人しく東の塔へと向かうのだった。
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――鐘の音が聞こえる。
――【戴冠式】が始まる時刻を告げる鐘の音だ。
さっさと用事を済ませた後、リリーは皆が集まっている城のホールへと足早に向かう。
城のホールでは大勢の貴族や使用人達が自分を笑顔で出迎えてくれる筈だ。もちろん、大切な母や新しく王となる優しい兄も――。
しかし、急いで城のホールへと駆け付けたリリーが目の当たりにしたのは――まさに地獄のような光景だった。
――【戴冠式】に招かれた大勢の貴族の人々。
――いつも自分達の世話を懸命にしてくれたメイドや執事達。
――リリーにとって大切な母や兄。
皆が――互いに重なり合うようにして力なく冷たい大理石の床へと倒れているのだ。
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