「ど、どうして……どうして――皆がっ……！？」 「お兄様……っ……お母様……っ……！？」 地獄のような光景を目の当たりにした後――リリーは一目散に慌てて冷たい大理石の床の上に重なり合うようにして倒れている大好きな皆の 元へと駆け寄る。 「みんな――祝福のお酒が入ったグラスを手にしながら――息絶えているわ。どうして……どうしてなの……っ……みんな、何も……悪い事なんてしていないのに……何でっ……うっ……ううっ……ぐっ……」 リリーが大好きな皆の遺体の前で崩れ落ち――目に涙を浮かべながら悔しさと悲しみを吐き出していると、ふいに――後ろから何か紐のような物でその細く白い首を絞めつけられてしまう。 「……まったく――これしきの事で泣くんじゃない。これだから――力の無い弱い女は嫌いなのだ。それにしても、リアムの奴め――我がいるというのに……あの執事と恋仲になるなど……許さぬ、許さぬ……これは――これは……我からのリアムに対する罰だ――」 「この城に集いし者達は……我を裏切ったリアム共々――死をもって償うがいい。むろん、貴様もだ……泣き虫でじゃじゃ馬娘のリリーよ……」 かつて王冠を被り、誇らしそうに玉座にふんぞり返っていたその金髪の男は――もはや昔の面影など微塵もなく正気を失っていた。 実の娘であるリリーの首を絞め――自ら手にかけようとしているのだから。必死で、かつて父だったその狂人たる男から逃れようと、もがいてみるも――体格差と力の差のせいで全然うまくいかないのだ。 徐々に薄れゆく意識の中で――リリーは思う。 (お父様は――実の息子であるお兄様を本気で愛していたんだわ……そして、その反面――自分よりも王として才覚のあるお兄様を憎んでいた……お兄様が次期王になる事に対しても執事と恋仲になった事に対して嫉妬していたのよ――) (だから……病に伏せっているフリをして――皆が飲む祝福のお酒のワインに……ご自慢のヘビの毒を入れて……私が大好きな皆と……娘である私も……殺し……た……のよ……) ――そこで、ふいに【リリー】としての記憶がブツッ……と途絶えてしまうのだった。