122 / 713
城のホールでの異変③
「あ、あの……巨大なヘビは――何なんだよっ……て……そんな事を言っている場合じゃねえ!!さっさとどうにかしねえと、あの――金髪のニンゲンの命が危ねえぞ!?」
「……くっ…………!!」
ナギが明らかに動揺しつつ叫ぶと、その仲間の声に反応するかのように――咄嗟に機転をきかせてサンが己の武器である弓を構える。そして、いつの間にか城のホールへと現れていた巨大な黒いヘビへ向かって矢を放つのだ。
サンが放った矢は、そのまま黒い大蛇の体を貫き少なからずダメージは与えられると思っていたのだが――、
「くっ……くそっ……ダメだ―ー私の放つ矢では……あの忌々しい黒ヘビにダメージを与えるどころか――そもそも、黒ヘビの体に矢を当てることすらかなわない……何故か、矢が体をすり抜けていってしまう!!」
「も、もしかしたら……サンの矢みたいな物理攻撃は――効かないんじゃないかな。ミストの魔法攻撃なら……ダメージを与えられるかもしれない……」
矢を巨大な黒いヘビの体に当てる事すら出来ず、いつもは冷静沈着なサンが珍しく焦燥を露にして悔しそうに眉を潜めると――それに反応したのか、ポツリとミストが呟いた。
サンが放った矢は巨大な黒いヘビの体をすり抜けると、虚しくもそのまま放物線を描きながら黒ヘビがいる向こう側へと飛んでいき――かつて、この城で実の息子であるリアムや娘であるリリー……それに、彼らの母や使用人――招待されただけの貴族達の命を理不尽に奪った狂人たる王の絵画へと勢いよく突き刺さる。
「おい、お前ら……今だけは――ぼくの言葉を聞け!!その薄気味悪い黒い大蛇は【さまよえる貴族の魂】の結合体だ!!ぼくは――この目で【さまよえる貴族の魂】が徐々に集まっていって黒いヘビの姿になるのを――見たんだ」
ふいに、引田がこの城のホール中に響き渡る程の大きな声で僕らへと言ってくる。先程までは磔状態にされたせいでグッタリとしていた引田だったが、どうやら少し元気を取り戻したらしい。もっとも――巨大な黒いヘビが現れたせいで、これからも油断は出来ないのだが――。
【許サヌ……許サヌ…………ワレが……大切にシていル者ヲ……傷つけル者ハ……決シテ……許サヌ……】
突如、城のホールへと現れた巨大な黒いヘビの正体が【さまよえる貴族の魂】の結合体だという引田の言葉に納得しかけていた時――引田のその大きな声で放った言葉が合図だったとでもいうように何処からか聞き覚えのない男の低い声が響いて僕らの耳を刺激してくるのだった。
ともだちにシェアしよう!