◇ ◇ ◇ ――ゴォォォォッ…… 風の魔法で城の地下通路へと続く石の階段への逃げ道を作り、ユウタとマコトを見送った後、目の前に立ちはだかる【さまよえる貴族の魂】の結合体である巨大な黒いヘビと――かつて愛する母や親しくしていた身近な人々、それに――最愛なる妹の命を実の父親から理不尽に奪われた【リアムという青年の怨念】とを順々に観察するように見つめながら、彼らをどのようにして倒すかという対処法について心の中で考える。 (きっと……ライムスっていうスライムに憑依しているデュラハンの姿に変化しているリアムの怨念には物理攻撃は効かないはず……さっきみたいに弾かれるのが目に見えてる……と、いうことはサンには悪いけど彼の攻撃には期待できない……いざとなればミストが魔法で攻撃するしかない――それに問題は――あの巨大なヘビをどうするか――だけど……) 「お、おいっ……ボーッとしてんじゃねえぞ……ミスト！！」 「……えっ…………！？」 そんな事を考え込んでいた時、ナギの慌てている声が聞こえてきてハッと我にかえる――が、急にヌメヌメとした白い粘液混じりの細長いナニかに片方の足首をニュルッと掴まれ、しかも――そのまま細長いヌメヌメしたナニかが体全体に巻き付いてきてきたためミストは生理的嫌悪感を覚えて小さく悲鳴をあげてしまう。 慌てて、ミストは今の自分に起きた状況を理解するために辺りを見渡してみる。すると、目の前にいる【ライムスを操ってデュラハンの姿に変化しているリアムの怨念】の首を持っていない方の左手が――まるでタコのように細長い黒い触手の形へと変化していき、ソレが蠢きながらミストの片方の足首を掴んで彼を捕らえているのだ。 「うっ……ううっ……き、気持ち悪いっ……早く――ミストを離してよ！！」 【そうダナ……おまえガ……ご主人様ノ……モノになるトいうなラ……おまえノ命ハ……救ってヤロう……さア、どうするノダ！？】 「ご、ご主人様って……ヒキタっていうニンゲンの事？もしかして、今のキミは――リアムとやらじゃなくて……ライムスなの？でも、残念だね……ミストはヒキタっていうニンゲンの物になんか……ならないよ……ミストには――この身と魂を差し出したい……ニンゲンが他にいるから……っ……」 思わぬ提案に怪訝そうな表情を浮かべていたミストだったが、城のホールへと響き渡る程の大きな声でハッキリと自分の意思を言い放つのだった。