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村は操られたワーウルフの群れだらけ①
※ ※ ※
ナギが空から飛んできた何かに連れ去られてしまった後、ガルフの言うところによれば――スーツ姿のリッくんという男の人の側近らしいアラクネという上半身は綺麗な女の人の姿で下半身は蜘蛛という奇怪な魔物によって魅力され操られてしまった狼の獣人でガルフの部下でもあるワーウルフの群れによって僕らは取り囲まれてしまっていた。
「ど、どうしようっ……さすがに、この数の奴らをどうにかしようとなると――ミストの魔法とサンの弓だけじゃキツイよ?今はナギもいないし――それに、何だかガルフさんの様子も変だし……ワーウルフのみんなの様子も変だよ!?」
ふと、ミストが困惑しながら僕らへと訴えかけてきた。確かに、このワーウルフの集団を相手にするのは冷静に考えてみても無謀だとも思えるし、ガルフを含めて部下達であるワーウルフの集団の様子もおかしいのだ。
明らかに――先程よりも呼吸が荒くなり、瞳が血のように赤くなっている。
「グルルッ……ガルル……グォォォッ……」
すると、狂暴な呻き声が聞こえてきた途端に――ガルフを含めてワーウルフの集団達の見た目が先程まではどちらかというと人型を保っていたものから――どんどんと、本来は獣であり迫力ある狼の見た目へと変化していく。
『ワーウルフってね――狼の獣人で満月を見ると本来の大型の狼の姿に戻って凶暴化しちゃうんだよ……それでね、厄介なのは一度敵だと認識した存在へ執拗に襲いかかるんだって……格好いいけど、なんか怖いよね――だって満月を見ると……敵とはいえ執拗に追いかけ続けるんだよ?優太は怖がりだから会ったら腰を抜かしちゃうかもね~……』
またしても、いつか――想太が笑いながら言っていた言葉が脳裏によぎる。
「と、とにかく……ここから逃げなくちゃ……ワーウルフの集団を倒すよりも――安全な場所を見つけて隠れるのが先決だよ!!」
「よし、じゃあ……優太の言う通り――出来るだけ全力で走るぞ!!逃げるなら、ヤツラの様子がおかしい今しかないっ……」
誠が僕の背中を押すように頷いてからミストとサンへと言ってくれた。そして、ミストとサンは僅かに不安げな表情を浮かべるものの――結果的にはコクッと頷いてくれるのだ。
空に浮かぶ大きな満月を無言で見つめてから、僕らはアラクネに操られてしまった哀れなるワーウルフの集団の隙を見て、安全な場所を探すためにその場から走って行くのだった。
ふと、後ろをチラッと見てみると――人型に近い狼の姿から完全に巨大な狼の姿となり暗闇で光る二つの赤い瞳を此方へと向けて鋭い牙が剥き出しになっている口元から唸り声をあげているガルフが僕らを追いかけている事に気付く。
(ガルフさんなら……大丈夫、大丈夫だよ……きっと、いつか正気に戻ってくれる……っ……お願いだっ……早く……正気に戻って……ガルフさん……)
必死に心の中で願いながら、僕ら一行は尚も安全な場所を見つけるために荒廃している村の中を駆けて行くのだった。
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