169 / 713

~死と始まりの塔にて~

◆ ◆ ◆ ◆ 「ほら……ねえ、見てみなよ……生意気なエルフくん!!エルフの奴隷達がいた村で何かあったみたいだよ?もしかしたら、アラクネちゃんが魅了して操られていたワーウルフの群れが正気に戻ったか……もしくは、予想外の何かがあったのかもね――。でも、まあいいや……元々、ワーウルフの群れには期待なんてしていなかったしね……そんな事よりも――」 「――もしかしたら、生意気なエルフくん……これから君の仲間が此処まで来て、俺から君を取り返そうとしていくかもね~。まあ、俺としては受けてたつよ……負ける気だってサラサラないし。何よりも――俺には俺には……アラクネちゃんとハーピーちゃんっていう力強い仲間がいるからね」 ふっ……と笑いながら、ナギの頬を愛おしげに撫でつつ――塔のある部屋の窓から少しばかり離れた場所に見えている優太達が今いる村の様子をジッと伺っているスーツ姿の男。 そして、相変わらずアラクネの強靭な糸から逃れられず怒りと途徹もない程の屈辱感に満ちた表情を浮かべながら、ぴくともしない人形のようにさせられてしまった自分の体を好き勝手に弄んでいるスーツ姿の男をジロリと厳しい目付きで睨み付ける事しか出来ないナギ。 トン、トントン…… 「……金は力なり――」 ギッ……ギギィ~…… 部屋の扉が外側からノックされた事に気付いたスーツ姿の男が何かをポツリと呟いた事に気が付いたナギは――直後に扉が自動で開いた事を目の当たりにして、まるで魔法のような現象をスーツ姿の男がしてみせた事に対して――びっくりしてしまう。 「来たわよっ……愛しのリッくん♪あたしとハーピーに……大事な話があるって何なのかしらっ……!?」 「キューイ、キュイ……アラクネしゃまに呼ばれて来たのでしゅっ……大事なお話って何なのでしゅか?偉大なるご主人のリッくんしゃま!?」 喧しい訪室者達の存在に気付いたスーツ姿の男は――名残惜しそうにナギの頬から手を離すと窓の方から扉へと顔を向けてから己の忠実な部下であり仲間ともいえるアラクネとハーピーへと満足な笑みを向けるのだ。 「いいかい――アラクネちゃんとハーピーちゃん?これから、俺の敵といえるヤツらが――前にいた村からやってくる。ソイツらを――やっつけて欲しいんだ。ただし、エルフの命は奪わないこと。つまり、エルフ以外の命は最悪の場合――奪ってもかまわないって事さ。なにせ、エルフはこのナギちゃんと仲良しみたいだし――いずれは俺だけの奴隷にするからね。エルフだけら――生け捕りだよ……分かったね?」 「分かったわっ……リッくん!!要は――エルフ以外のヤツを全力でやっつけちゃえばいいのねっ……あんなヤツら――あたしの糸で骨抜きにして滅茶苦茶にしてあげるわっ……」 「偉大なるご主人のリッくんしゃま……りょーかい……でしゅ!!」 不敵な笑みを浮かべながら、スーツ姿の男は窓にピッタリと壁づけされているナギが横たわるベッドの方へとゆっくりと戻ると――そのまま、再びナギの頬へ触れるだけの簡単な口付けを落としてから窓の外へと顔を向け直すと外の様子をジッと見つめながら――ひたすら、侵入者たる優太達一行が来るのを愉快そうに待ちわびるのだった。

ともだちにシェアしよう!