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満月の光に照らされて①

※ ※ ※ ――その後、僕ら一行はこれからの事について話し合いをした。 その結果、これから何が起こるか分からない上に見通しの悪い夜に【死と始まりの塔】へと向かうのは、さすがに危険だという事で――すぐに村を離れるのは止めにして此処で一夜を過ごしてから塔へと向かう事にしよう、と皆で決めた――。 ――それに、まだひとつ解決しなければならない問題がある。 ガルフさんの容態の事だ。あれから、引田によって手渡された魔薬ドロップの効力のおかげで多少は体調が良くなり、サンや正気を取り戻せた部下であるワーウルフの群れと共に気絶状態から目を覚ましたものの――やはり、ガルフさんに至ってはまだ本調子ではないらしい。 僕らはガルフさんをスーツ姿の男が支配しておる【死と始まりの塔】へ連れて行くのは本人の体調を完全に回復させるためにも止めておいた方がいいと口を揃えて言うのだが、いかんせんガルフさん本人が頑なにそれを拒み――共に塔へと着いて行くと言って聞かないのだ。 きっと、スーツ姿の男の人から捕らえられているという親友のエルフを――どうしても自らの手で救いたいのだろう。それだけは――ガルフさんの必死な剣幕を目の当たりにして、何となく理解出来た。 「ああ――もう、このままじゃ埒があかないよ。じゃあ、ぼくとミスト様がこの狼人間の看病を順番でやってって――明日の体調の具合を見て……大丈夫そうなら連れて行くってのはどう?それでダメなら――狼人間、あんたが着いて行くのはキッパリと諦める。ねっ……いい考えでしょう?」 ふいに、ガルフさんと僕との……一緒に塔へ行くか行かないかの押し問答に対して――いい加減、ウンザリしていたのか引田が大きな溜め息をついてから僕らへと提案してきたのだ。 「――もう、仕方がないなぁ……って……何でミストとヒキタが看病するって勝手に決めてるの!?というか――勝手にミストの事……様付けにして呼ばないでよ――は、恥ずかしい……からっ……」 引田とミストとの微笑ましいやり取りを見て、思わずクスッと笑ってしまう僕――。そして、引田の提案を聞きつつも――尚も納得しそうにない頑固なガルフさんの様子をチラッと一瞥する。 「……ガルフさん、そのエルフのお友達を救いたいっていう……気持ちは――痛い程に分かります。でも、それ以上に……ガルフさんの体調が心配なんです。もしも、僕らが無事にエルフのお友達を救って村に戻ってきたとしても――ガルフさんの体調が悪いままじゃ……悲しむと思うんです。だから――」 「それは……重々、承知している。もしも、明日――我が儘の体調が良くならなければ――その時はキサマらに任せるぞ!?」 僕が真剣な形相をしながら必死で自分の想いを告げると、ガルフさんは何処となく照れ臭そうにソッポを向いてから――フッ……と笑みを浮かべつつ素っ気ない様子で僕ら一行へと言うのだった。

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