175 / 713

スティール・フィッシュにご用心③

「こいつらは――スティール・フィッシュだ!!おい、何をしているっ……出来るだけ早く……遠くに逃げろ……こいつらは――お前の顔に一度噛み付いたっ……こいつらはニンゲンの顔に噛み付き――顔を盗む事で魔力を得る……そして最終的に半魚人となるのだが――」 「マコトの恋人よ――お前の顔を完全に盗み終えるまで……執拗に狙い続けるぞっ……モタモタしている暇はない……今、お前の顔に噛み付いたヤツが仲間を呼び――取り囲まれてしまう……すぐにミスト達の元へ逃げろ……ここは、私が何とかする!!」 何が起こったのかすら訳が分からずに呆然としていると、すぐにサンが僕の方へと駆け寄ってきて厳しい顔付きで忠告してきたため彼に言われた通りにミスト達がいる場所へと戻ろうと、足をもたつかせながらも必死で泉の中から出ようとする。 ――ガッ…… 「う……うわっ…………!?」 しかし、僕がまさに泉の中から地上へと戻ろうとした直前で得たいの知れない何かが僕の足を掴み、そのまま強引に泉の中へ引き摺り込まれそうになってしまう。 ――ザシュッ……!! すると、その様子に気付いてくれたサンが慌てて自分の弓で僕を強引に泉の中へと引き摺り戻そうとしてくる得たいの知れない何かへ向かって勢いよく矢を放ってくれたのだ。サンの矢は見事にその得たいの知れない何かへと命中し、そのまま得たいの知れない何かは小さく呻き声をあげつつ泉の中へと沈んで行く。 ――その時、確かに僕は見た。 ――その得たいの知れない何かは人間の見た目をしていた。しかし、ごく普通の人間とは言えないのも事実だ。 かつて、ごく普通の人間だったであろう何かには顔がなく、本来であれば顔があるべき筈の場所には――黒い黒い穴が全体を埋めつくしてしまう程に空いているのだった。 きっと――いや、確実にスティール・フィッシュの餌食となってしまった人間の残骸なのだろうと思った僕は全身に鳥肌がたつ程に恐怖から身を震わせてしまうのだった。

ともだちにシェアしよう!