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スティール・フィッシュにご用心④
「……ひっ…………!!?」
男として情けないのだが、僕は本来なら顔があるべき場所にポッカリと大きな黒い穴が空いている――かつては人間だった筈の存在から泉の中へ強引に引き摺り込まれそうになり悲鳴をあげる事しか出来なかった。
サンが忠告してくれたように、今すぐにミスト達の元へ戻らなければならない――と頭の中では分かってはいるものの不甲斐ない事に足がすくんでしまい体がうまく動かせないのだ。
――バシャッ……バシャ……
――パシャッ……バシャ……バチャッ……
すると、かつては人間だった筈の顔に黒い穴がポッカリと大きく空いてしまった存在に僕が気付いて少し経ってから――水音をたてつつ僕とサンの周りを取り囲むように大勢の何かが集まってくる事に気付く。
――スティール・フィッシュの群れだ。
――桶の中に潜み、僕の顔に噛み付いて盗もうとしたスティール・フィッシュの仲間の群れが集まってきたのだ。
「……くっ…………マコトの恋人よ――お前がモタモタしていたせいで……ヤツの仲間が集まってきたぞ!!仕方がない……私の弓矢を使って……お前に噛み付いた親玉ともいえるスティール・フィッシュを倒せ――私は周りにいる鬱陶しい仲間のヤツらを何とかするぞ……っ……」
「そっ……そんな……弓なんて一度も使った事がないよっ!?」
「そこは、私がフォローしてやる!!とにかく、お前が招いた事だ……何とか自分で蹴りをつけろ――ほら、これを使え……今だけ貸してやる」
サンは苦々しい表情を浮かべ、厄介な面倒事に巻き込まれてしまった――といわんばかりに呆れたように僕を一瞥してから溜め息を吐くと、自分の武器である弓矢を僕へと放り投げるように渡してくるのだった。
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