185 / 713

いざ、【捨てられしものたちの楽園】へ②

――ズッ…… ズシンッ……ズリ、ズリ…… ――ズズンッ……ズリ…… ドスンッ…… 何か――得たいの知れない存在が重い足音を響かせながら徐々にゆっくりと此方の方へと一歩一歩……近付きてきているような気がする。 「おい……何か――変な音が聞こえて来ないか!?まるで……大きなものが……なにかを引きずりながら……此方へと歩いてきているみたいな……っ……」 「た、確かにっ……!!それに、さっきから地面が揺れている気がするよ……みんな、何が起こるか分からないから覚悟しておいた方がいい……それと、サン……ヒキタ――すぐに武器が出せるように準備しておいて……っ……」 ――ズズンッ…… ――ドシッ……ドス、ドスンッ…… ミストと誠がやり取りした後、これまで地面を揺らす程に大きな音を立てながら此方へと歩いてきた得たいの知れない存在の足音が唐突にピタッと止んだ。 そのせいで、辺りは少しの間――静寂に包まれてしまう。 ――しかし、 【嫌よ、嫌だわ……ヘンゼルお兄さま!!恐ろしい魔女に命令されて――わたしたち兄妹を捨てた土の魔物が……とうとう、こっちへ来たわっ……もう、こんな所になんかいられないっ……土の魔物のことはマスターのお客様に任せて――あたしたちはお菓子の家でお茶会をしましょう……仲間の皆と……お茶会、お茶会っ……♪】 【ええ~っ……お客様をマスターの元へ案内するっていう命令に背くような事をしたら――マスターに怒られちゃうよっ……グレーテル……待ってよ、待ってったら~……っ……】 得たいの知れない存在の重い足音がピタッと止んで聞こえなくなった途端に、ヘンゼルとグレーテル人形たちは――警戒を解かずに緊迫している様子の僕らを放置し――そのまま、ぴょんぴょんとウサギのように跳ねながら何処かへと逃げ去って行くのだった。 その時――僕は、確かに見た。 ヘンゼルとグレーテル人形たちがウサギのように軽々と跳びはねながら去って行った方向から、警戒しきっている僕らを監視しているかのようにヌッと此方を覗き込む形の黒い大きな影を――。

ともだちにシェアしよう!