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操り人形との戦い⑧
「……うっ……ううっ……!!」
【操り人形・蜘蛛ノ形】の――すぼめられた口から発せられる篠笛のような耳障りな音を聞いてからというもの――ひっきりなしに酷い頭痛と目眩に襲われてしまう。だが、それとは別にもっと厄介なものが僕の心の中へと意思に反して無遠慮に入り込んで支配していた。
【知花にさらわれた想太のことなんて……もう、どうでもいいよ――誠達の事だって、どうでもいい……それよりも――この痛みや苦しみから……解放されたい……このまま何もしなければ……痛みや苦痛から解放される】
【ああ……この異様な世界に来る前に住んでいた穏やかな世界に――帰りたい……】
――今の僕の心を支配して止まないのは負の感情だ。
例えば、軍人――もしくは痛みや苦しみに耐える訓練をしてきて乗り越えられた人間ならばまだしも、僕は単なる一般人であり、痛みや苦しみに対しては弱い。それに、僕の気のせいかもしれないが段々と剣を握る手の力が弱くなってきた。
――その時だった。
「ユウタさん……敵の腹に――少しだけど亀裂ができてマス!!そこを狙うんデス!!」
――未だかつてない程の、張り裂けそうなライムスの叫び声だ。
絶えず襲ってくる頭痛や目眩と必死で戦いながらライムスの助言を聞き、最後の抵抗といわんばかりに意識朦朧としていて弱っている状態の今の僕が出せる全ての力で繭玉に突き刺さっている剣で――何とか完全に引き裂いてやろうと思うのだった。
そして、次の瞬間――僕は無意識の内に、まるで何かに誘われるように蜘蛛の繭腹の中へと手を伸ばそうとした。
――ヒョォォォ~……
――ピィィィ~……ヒョロロ~
その後、当然と言われれば当然なのだが――【操り人形・蜘蛛ノ形】は僕が繭玉の中に手を伸ばそうとしてたのに気付くと先程までは不気味に頬笑んだ表情の再び――ぐにゃり、と歪めると今度は尋常じゃない程の怒りを露にしながら、より大きく口を開けて息を吸い込み――さっきよりも大きな篠笛の音を発する。
――フゥッ……フゥゥゥッ……!!
すると、その大きな篠笛のような音を聞く事によって更に頭痛と目眩が増したせいで、一時的とはいえ完全に動きを止めてしまった僕を――その異様ともいえる息の攻撃による半端ない威力の風圧によって、今いる場所から少し遠くに離れている場所へと吹き飛ばしてしまうのだった。
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