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繭腹の外での反撃――その後②

「優太くん……木下誠とイチャイチャしているところ悪いんだけどさ、ちょっと見て欲しい物があるんだ。これ、あの気色悪い蜘蛛の腹の中で見つけたんだけど、ここにあの蜘蛛とソックリな化け物の絵と――すぐ側に優太くんみたいな子供の絵と君の名前が描かれてるよね?だから――君に返した方が良いかなと思って……持ってきたんだ」 「…………えっ……僕の……名前!?」 引田から渡された画用紙を見てみると、確かにそこには引田と誠が協力し合ったおかげで爆発させた【操り人形・蜘蛛ノ形】の姿と――そのすぐ側で怯えたような表情を浮かべている、幼い頃の僕にソックリな子供の姿が色鮮やかなクレヨンで描かれている。 それに、画用紙の右下には――たどたどしくて、いかにも子供の書いたように乱れた少し大きめの文字で《ユウタ》と書かれていてそこから長く伸ばされた矢印の先に怯える僕ソックリの子供の姿が描かれているのだ。 『ここには……この絵の中には――ボクはいないの。だって、ボクは優太みたいに怖がりじゃないから……別の所にいて怖がる優太の姿を見てるんだもん!!』 両親がいなく――身寄りのない僕と想太が過ごしてきた施設での幼い頃の何て事のない想太の言葉が――僕の頭の中にフッ……と浮かんできた。 (――そうだ、この画用紙の絵は施設で想太が描いていたもの……だけど……っ……) 僕は――この絵が、何故元々いたダイイチキュウという世界ではなく――このミラージュの――しかも、あのように化け物じみた蜘蛛の腹の中にあったのか不思議でならなかった。 この想太が描いた絵は、意地悪な女性職員によって――その場で捨てられてしまった筈だ。 【気持ち悪い絵を描くんじゃありません。あなたたちは子供なんだから……もっと明るい絵を描きなさい!!】 普段は優しくて穏やかな顔を豹変させ、素っ気なく言い放ってきた女性職員は子供の僕らにとって――得たいの知れぬ化け物のようであり――ただ、ひたすらに怖かったのだ。 そして、僕は確実にこの目で――その冷酷な場面を見ていた。その後、一生懸命に描いた絵を目の前で捨てられたせいで大きな目に涙を溜めながら泣きじゃくってしまった想太を必死で慰めたのは誰でもない、僕自身だったのだから――。 ――ガランッ……!! 引田から画用紙を渡されて過去の想太との思い出に浸っていた僕だったが、ふいに――今僕らがいる場合少し離れている所から何かが崩れるような音が聞こえてきたような気がして慌ててそちらへと顔を向けるのだった。

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