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【➡️コッチ】には何があるのか②

引田を――あっという間に飲み込んでいき、彼の姿が完全に着ぐるみ内に入った途端、まるで玩具の電池が切れたかのようにピンクのうさぎの着ぐるみは大人しくなった。先程までは口を大きく引き裂き、目を真っ赤に光らせていたのだが、それも引田を完全に飲み込んだと確信したからか――今は、口を閉じ――そして目を瞑っている。 「ヒキタ……ヒキタ……………ッ!?ヒキタを返してよっ……このっ…………!!」 ――ドン、ドンッ……!! 引田が急にピンクのうさぎの着ぐるみに飲み込まれてしまった事で、若干パニックになっていたミストが、普段は余り見せないような怒りの表情を露にしながら、握りこぶしでピンクのうさぎの着ぐるみの胸元を思いきり叩いた。 ――すると、 「…………っ!!?」 引田が飲み込まれた途端、大人しくしていたピンクのうさぎの着ぐるみの可愛らしい瞳が再び開いて真っ赤に光り輝く。そして、危機感を抱いた僕が慌ててミストの元に駆け寄ろうとしたが――時すでに遅く、またしてもピンクのうさぎの着ぐるみの口が大きく引き裂き、そのまま引田だけではなく――あろうことかミストまで着ぐるみの中へと飲み込まれてしまうのだった。 誠が止めるのも構わずに、引田とミストを救うべくピンクのうさぎの着ぐるみの胸元を何度も思いきり叩き、意図的に着ぐるみの中へと吸い込まれようとしたが何故かピンクのうさぎの着ぐるみの瞳は開かれず――口を引き裂く素振りも見せない。 それでも諦めず何度か試していると――、 【……Im,full……Im,full……Im,full……】 目を瞑ったまま、ピンクのうさぎの着ぐるみが同じ言葉を繰り返す。すると、急に後ろから今までは感じる事のなかった何者かの気配を感じて僕は不安と恐怖を抱きつつ――おそるおそる後ろを振り変えるのだった。 其処にはーーいつのまにか、幼い女の子が立っていた。辺りが暗いせいで、どんな格好をしているかまでは分からないが、かろうじて性別は女の子だと分かった。唐突にその女の子が現れたせいで僕は反射的に後ずさってしまう。そして、ミストがピンクのうさぎの着ぐるみに飲み込まれた時の衝撃のせいで床へ落としてしまっていた杖を慌てて拾いあげると未だに発光を続けている杖を、その女の子に向かって振り上げた。 ――赤い頭巾。 ――バレリーナが身に付けるチュチュのような赤いドレス。 ――バレリーナが履くトゥシューズのような黒い靴。 ――顔の部分には黒い穴が開いていてその表情は全く分からない。 「ひ、ひぃっ……………!!?」 その余りにも異様な女の子の姿を目の当たりにした僕は、とても情けないのだが悲鳴をあげる事しか出来ない。 「優太……今すぐに離れろっ……!!そいつは人間じゃないっ……姿は人間の少女に似ているが……そいつは、そいつは――かつては栄えていたが今はとっくに廃業した遊園地のアトラクションにあった赤頭巾人形だ!!間違いないっ……俺がダイイチキュウにいた頃によく行った……《童話》をテーマしていた遊園地の……看板娘と言われていた赤頭巾人形だっ!!」 突如、今までにないくらいに慌てふためく誠の大きな声が部屋中に響くのだった。

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