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【ネムラ】の世界③ ※ミスト・引田side
「ゆ、優太……くん……!?」
【――嫌だな、引田ってば……せっかくの結婚式だっていうのに、そんな顔をして……ほら、周りの皆も僕らを祝福してくれているよ?】
「け、結婚式……一体、何のこと?だって、君には……木下誠が――ぼくの他に愛を誓った仲間ががいるじゃないか!!それに僕らは互いに男だ……本来なら結婚式は男女間でする事であって……っ……」
【ふ~ん……でも、それが何?男女間でするとか……そんな事、どうだっていいじゃない。僕と引田の間に――永遠の愛さえあれば。それに――木下誠って誰のこと?いずれにしろ、そいつは……邪魔者だよね。だって、これは僕らの愛を誓う――結婚式なんだもん!!】
駄目だ、此方の話が通じない――。
でも、この隣にいる人物はダイイチキュウの学校で苛められていた事で精神を病んでいた時に出会った時の優太くんだ――と引田は思った。
その時、ふっと頭によぎる――ドス黒い気持ち。
このまま、互いに手を繋ぎながら真っ赤な絨毯の上をゆっくりと歩いていき、純白のウェディングドレスを着た女役の優太をエスコートしつつ檀上に登り――永遠の愛を檀上にいて持っている帽子を被った牧師へと永遠の誓いを告げる言葉を言い、どこか異様とも呼べるが夢のような《狂った結婚式》を終了させれば――引田の今まで夢にまで見た願望が叶うのではないか、という醜くてドス黒い気持ち――。
(今、隣にいて手を繋ぎ合っている幸せそうな優太くんは木下誠の事を忘れている……だったら、このまま、永遠に愛してくれるという優太と結ばれてしまえ……そうすれば、かつて自分を馬鹿にしていた愚かなクラスメイト達を見返してやれる)
『だから、このまま檀上に上がれ――上がれ――上がれ!!』
ドス黒い気持ちに支配され、引田の頭の中で、悪魔の囁きが響いていた――その時、
「…………ダメ……ダメだ……よ…………引田……」
観覧車の中で隣にいて、ぐったりと横たわっていた筈の切なげなミストの声が何処からか聞こえてくるのだった。
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