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【ネムラ】の世界⑤ ※ミスト・引田side

【さあさあ、オフタリさん……オキャクさま方に――あま~いケーキヲ……あま~いケーキヲ……あま~いケーキヲ……あげなヨ――アハハハッ――】 【ほら、引田――。ふたりで一緒にウェディングケーキにナイフをいれよう?もう、ここまできたからには――逃げられないことくらい分かってるんでしょう?だって、引田は頭がいいもんね】 その得たいの知れないウェディングケーキの前に来た時、やはり狂っているとしかいいようがない緑色の帽子を被った牧師が癪にさわるような愉快げな笑い声をあげながら戸惑っていた引田と――それとは反対に、とうとう引田と共に檀上まで登り、狂った牧師の前に来たからなのか、うっとりとした表情を浮かべている優太らしき人物へと話しかけてくる。 引田は優太らしき人物と共にウェディングケーキにナイフを入れる事を先程までは戸惑っていたが、ついに決意をしたのか、ウェディングケーキに突き刺さったままの銀色のナイフへとゆっくり手を伸ばす。 ヒヤリッ………… このナイフは――本物なのだろうか、と思った。それほどにナイフの持ち手の感触は冷たくて――とても偽物には思えない。 すると、もう待ちきれないといわんばかりに引田の隣にぴったりと寄り添う優太らしき人物の手が、先にナイフを握り締めた引田の手の上へと重なった。 そして、ふたりの手でウェディングケーキが何個かに切り分けられる。そして、引田は今は原型をなくしたケーキのすぐ側に黒い皿が何枚も重ねられているのを、チラッと一瞥する。 「……ぼくの愛しい優太くん、悪いけどこのケーキをのせるための皿を取ってくれないかな?大勢のお客さんが食べやすいようにね――もちろん、ミストなんて――もう、どうでもいい。ぼくらの永遠の愛を祝福してくれるお客さんを喜ばせたいだけなんだ」 【も、もちろん……愛する引田のためなら♪】 引田の予想どおり――嬉々としていた優太らしき人物は仮初めの愛の言葉を信じて、スキップでもしそうな程の軽やかな足取りで引田から背を向けて黒い皿を取りに行こうとした。 この狂った《結婚式》から逃れるためには――今、何とかするしかないと引田は思った。 そして、優太らしき人物が黒い皿を手に持ち、此方へと振り向く前に引田はウェディングケーキを切り分けた後、テーブルに置かれていたままの銀色のナイフを手に持った。多少、ケーキの欠片がついているが、そんな事を気にしている場合ではない。 グッ………… ヒュッ――!! 未だにケーキを取り分けるために背を向けていた優太らしき人物に気付かれないように慎重にナイフを握り、気分を落ち着かせるために軽い深呼吸をした引田は勢いよく、ある場所へとナイフを投げた。 ――狂人である緑色の帽子を被った牧師の所ではなく、 ――自分から背を向けて嬉々として黒い皿を取ろうとしている優太らしき人物の所でもなく、 ――先程までは横たわっていたミストを取り囲んでいたが、ウェディングケーキのナイフカットを我先にと見る為に檀上のすぐ側に群がっているマネキンのように不気味な奴等でもない。 ―――グサリ 【ああ――これで、この《夢にまで見た結婚式の世界》が終わる!!】 引田は未だにぐったりと横たわっていた――ミストへとナイフを投げたのだ。そして、謎の言葉を言い残し、そのまま――まるで今まで存在してなかったかのようにスゥッと姿を消したのだった。 【なっ………なんて事をっ……なんて事をしてくれたのっ……この、このっ…………裏切り者の浮気者がぁぁぁぁーーーっ!!】 「…………ぐっ……ううっ………!!?」 異変に気付き、慌てて振り返った優太らしき人物の顔が怒りに満ちて、がむしゃらに叫ぶと――あろうことか引田の首に手をかけてぎり、ぎり――と音がしそうな程に締め付けてきたのだ。 引田の顔がみるみる内に血の気が引いて真っ青になっていく。そして、その様を冷酷な笑みを浮かべて見つめてくる優太らしき人物が尚も首を締める力を強めてきた。 あまりの苦しさから、呻き声をあげる事しか出来ない引田――。 ピキ、ピキッ―― ビキッ―― パリ―――ン!!! その時、急に天井からぶら下がった卵型のランプに徐々にひびが入っていき、そのまま割れてしまい――《狂った結婚式》の室内は最初のように暗闇に包まれた。 そして、そのまま引田の視界と意識も暗闇におちていくのだった――。

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