247 / 713

【マイ蛾】の襲来① ※ミスト・引田side

※ ※ ※ ――はくしょんっ!! 引田は自分のくしゃみの音で目を醒ます。 そして、靄がかかったように朦朧としている頭の中――此処はどこなのか、そして――先程の悪夢のような《結婚式》から抜け出せたのか、という事を確認するために頭は動かせなかったものの、かろうじて目を動かして辺りの様子を見渡してみた。 元からいた《観覧車》の中だった――。 しかし、この観覧車で目を醒ました時とは明らかに違う事がふたつあった。 ひとつめ――それは、先程まで窓の外には元いた世界の《学校》の光景が映し出されていたが、今は霧に包まれたかのように真っ白くなっている事。 ふたつめ――それは、最初にこの観覧車で目を醒ました時にはいなかった筈の大量の灰色の蛾が中を埋め尽くしてしまう程にバタバタと飛び交っていて、その度に――あまりの数に呆然とするしかない引田と未だにぐったりと横たわっているミストの体・顔・そして口元へと蛾の鱗粉がバサバサと振りかかる。 「まさか、この観覧車に乗ってきた時から――ずっとこの蛾達はこの中にいたの?窓の外の景色が変わっていたのも、この蛾達のせいなわけ?」 【その、まさかだよ――ネムラの愛しいおにいちゃん♪あのまま永遠の愛を誓っていれば――幸せで《夢のような》――【ネムラの世界】にいれたのに~……余計な事をしたせいでネムラがネムロに怒られちゃう――まあ、ネムロなら上手くやるだろうけどね~……この耳長おにいちゃんも《ネムロの空想》の世界でお休み、お休み~♪】 ふいに、楽しげな少年のような声が引田の耳に聞こえてきた。しかし、びっくりして体を振るわせながら辺りを見渡してみても―――横たわっているミスト以外の姿が見えない。 ――フワッ すると、ふいにミストの体の上に青・黒・白の斑模様の羽をしている蝶がとまった。 「ち、蝶…………!?」 【嫌だなぁ~……ニンゲンのおにいちゃん♪ネムラを醜い蝶なんかと見間違わないでくれる~?こう見えても、ネムラもネムロも――れっきとした蛾だからね?】 思わず呟いてしまった引田へとミストの体の上にとまった蝶だと思い込んだ――蛾が嫌そうな声で言い放ってきた。 そして、おそるおそる引田はミストの体の上に未だにとまっている羽だけは美しい蛾へと手を伸ばして捕まえようとした。 すると――、 【ざんね~ん♪その手にはのらないよっ……ニンゲンのおにいちゃん♪】 まるで引田が己を捕まえようと手を伸ばそうとしている事を前々からわかっていたかのように――ミストの体の上から姿を消した。 慌てて引田は鱗粉をばらまきながら周りを飛び交っている蛾の大群の中からネムラとかいう美しい羽をした蛾を探そうと目を凝らした。 ギュウ……ッ…… 【ネムラはここだよ?今度こそ、永遠に離さないから――だから、ネムラの本当の姿を見て?ネムラ、可愛いでしょう?優太とかいうニンゲンと――耳長のおにいちゃんよりも――可愛いよね?】 引田は急に強い力で体を抱き締められた―――しかし、引田の前方にはミスト以外には誰もいない。相変わらず、周りを喧しく飛び交っている灰色の蛾の大群だけだ。 しかし抱き締められたというからには――誰かが後ろにいる事には違いない。そう思い、得たいの知れない恐怖を抱きながら額に汗を滲ませつつ、ゆっくりと後ろを振り向いた。 ――ニンゲンの少年のような見た目。 ―――灰色のオカッパ頭。 ―――金色の美しい瞳。 ―――白いシャツ、黒い半ズボン。 ―――割れた卵の形をした白い帽子。 ―――ひときわ目をひく背中から生えている青・黒・白の斑模様の羽。 その姿を直接目の当たりにし、先程ミストの体の上にとまっていたネムラと名乗った蛾だと引田は認めざるをえないのだった。

ともだちにシェアしよう!