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【ネムロ】の世界② ※ミスト・引田side

―――暗闇でもギラギラと輝く紫色の瞳。 ―――灰色と黒がところどころ入り雑じった腰くらいまでの後ろでひとつ結びした髪。 ―――頭のてっぺんからは細い触手のようなものが二本生えて青白く光っており、それが辺りを照らす灯りとなっている。 ―――黒いシャツと白い半ズボンを着ている。そして、その手には何故か割れた卵を持っており、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべつつミストへと卵を見せつけている。 ―――何よりも際立っているのはその男の背中から生えている青・黒・白の斑模様の蝶のような美しい羽。 その異様な男の姿に怪訝そうな表情を浮かべながらも、その羽の色が美しいせいで見とれてしまっていたミストにネムロと名乗った男が口を開く。 【このオレ――ネムロの卵からは逃げられなイ――ほ~ら――またキサマの記憶が幸せだった頃の夢のような日々が――映るゼ?】 「ミストの…………幸せだった頃の……日々?おあいにくさま、ミストは……今でも……十分幸せだよ。正体不明の怪しいアンタなんかに余計な事されなくたって…………っ……!?」 ギョロッ―― ふと、ネムロの手に持っていた卵の殻の外側に不気味に赤く光る目がひとつだけ現れ――辺りをギョギョロと見渡す。そして戸惑うミストの姿を見つけるとジッと穴があく程に見つめてから――パチリ、と目を瞑った。 すると不気味な目の姿は消え――今度は卵の殻の外側全体にミストにとって特別に愛しいと思える二人の男の姿が映りだす。 ―――まず、一人は病に伏せる前にミストへと優しい笑みを浮かべてくれた王様。病に伏せる前まではミストが尊敬できると思っていた男だ。 ―――もう一人は、今は大切な仲間であり、ミストの初恋の相手である誠なのだ。 かつてはミスト達と王宮に仕えていた誠と優太が、ある人物達から理不尽な理由で他の世界に飛ばされ、また優太と共にこの世界に戻ってくるまで――誠は、むしろ優太よりもミストとの方が関わりがあり――そして仲も良かったのだ。 その時の――ミストと誠が仲良く会話しあう光景が卵の殻の外側全体に映し出され、ミストは少なからず動揺してしまった。 【ミスト――お前を迎えにきた。かつての約束――お前と俺が永遠に結ばれるという願いを叶えにきた。周りの奴等も祝福してくれてる。さあ、《結婚式》を始めよう?】 ――パチ…… ――パチ、パチッ…… 拍手の音が聞こえる。 しかし、どこか―――無機質な拍手の音だ。 急に拍手が聞こえてきた原因を調べるため――今一度、辺りを見渡してみた。すると、白い壁が埋め尽くされてしまう程の絵画が揃いも揃ってミストの方を向きながら拍手をしている。 それどころか――床に置かれた、かつて王を信頼していた貴族達の小さな人形達も狂ったかのように一心不乱に拍手している。ミストはその人形達におそるおそる手を伸ばして触ってみた。先程のヘンゼルとグレーテル人形のように布でできた物ではなく、その小さな貴族人形達は粘り気のある土できた物だと分かった。 王宮に仕えつつ《魔法学校》に行っていた頃に習った――《ド・ネ・ドネーン》という特別に柔らかい魔力土でできた物であるとミストは悟ったのだ。 その絵画の中には病に伏す前の優しさと威厳に満ちた――かつての王の姿と、今の王に幻滅し精神を病んでしまう前の――かつての女王の姿もあった。

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