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【ネムロ】の世界⑤ ※ミスト・引田side

※ ※ ※ 間違いない――。 この【世界】は――かつて、ぼく達が通っていたダイイチキュウの学校にあった【旧校舎の美術室】だ。 辺りに置かれた朽ちかけてヒビが入っている彫刻や――風景画や人物画が描かれているものの古いせいでボロボロになったイーゼル――そして、かつては誰かが使っていたであろう筆や絵具――その他の美術用品が転がっている。 そんな、かつての【旧校舎の美術室】で引田は息を殺し――そして、所々に置かれた彫刻の中にまぎれながら、ひたすら息を殺して少し離れているものの前方にいるミストと――かつての同級生であり、また仲間でもあり、ライバルであるが見慣れない服を着た【誠の姿をしたネムロ】をジッと見つめていた。 いくら引田が誠を快く思ってはいないにしても、これだけは分かる――。 今、ミストの隣にいて彼に先程の自分のように《望まない結婚式》を無理やり挙げさせるように仕組んでいる隣にいる男――【誠の姿をしたネムロ】はミストと自分にとっての敵だと――。 だからこそ、引田は以前に美術の授業で使った事があり、今は所在なさげに周りに転がっている――鋭い彫刻刀を取り、息を潜めつつ絶好の機会を待ったのだ。 相手の命を奪うまではいかなくても、この鋭い彫刻刀を――うまく相手の弱点である部分へと当てれば油断させるくらいの事は出来るし、うまく行けば致命傷を与えるくらいは出来る――筈だ。 そして、ミストが《望まない永遠の愛の誓い》を【女王】から復唱させられている時に――引田はここぞとばかりに、手に握っていた鋭い彫刻刀を【ネムロ】の美しい黒・白・青の斑模様の羽へと勢いよく投げたのだった。

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