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【ネムロ】の世界⑧ ※ミスト・引田side
―――薄暗い部屋の中でもギラギラと光る金色の二つの瞳。
―――漆黒の胴体。
―――確かに瞳はギラギラと金色に光り輝いていたが、パッと見ただけでは引田が幼い時に旅行先で見た馬と余り変わらない美しい黒馬のように見えた。
しかし、目を懲らしてよく見てみると――その考えは間違いだった、と引田は思い直した。
黒馬の背中から、まるで蝙蝠のような恐ろしく大きな翼が生えている。そんな気色の悪い翼を生やしている馬など、現実の――少なくとも、引田達が以前にいた世界には存在しない筈だ。
【タスケ……テ…………タスケテ…………ウサギさん……ワタシをオイテ………ドコへイッたノ……ウサギさん……ウサギさん………永遠のお茶会ヲ……シマショウ……ネエ………ウサギさん………】
【Alice……Alice……Alice……l am
here(ここにいるよ)………Alice……】
何処からか、あの【観覧車】で出会った【夢見がちな女の子】と【ピンクのウサギの着ぐるみ】の声が聞こえてきた。あの時とは違い、ふたりとも心の底から切なそうな声をあげている。特に【夢見がちな女の子】の悲鳴は【観覧車】の中で引田へとウットリしながら語りかけてきた様子とは正反対で――まるで別人になってしまったかのような余裕のない声だった。
―――そして引田は身も凍ってしまいそうな程に、おぞましい事に気付く。
―――【夢見がちな女の子】【ピンクのウサギの着ぐるみ】の悲鳴が聞こえてきた場所――それは、化け物の胴体にある人がひとり入れそうな程に大きなコブのような物の中から聞こえてきたのだった。
そして、その大きなコブはひとつだけではなく――いくつもある。
ようするに、あのコブひとつひとつに――人がまるごと捕らえられている事になる、と引田は――とてもおぞましい事実に気づいてしまうのだった。
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