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【ネムロ】の世界⑫ ※ミスト・引田side
『ミストが仕えていた王様―――ごめんなさい。でも、これは……ミストを救うためなんだ。だから、どうか――許して……』
床に転がり、こちらをじっと見つめてくる《作り物の王》の首に向かって【ネムロ】や【作り物の女王】に気づかれないように小声で囁く引田。
すると、《作り物の王》の閉じられた目から涙が流れ落ちる。まるで、首をはねられた今でも――生きていて意思を持っているかのようだ。
頬を伝ったその一筋の涙は――やがて《作り物の王》の首全体をを包みこんでいき、ド・ネ・ドネーンの本来の性質のせいか――かつて引田がいた世界の粘土のように柔らかくなった。
おもむろに引田が柔らかくなった《王の首》だったド・ネ・ドネーンの固まりを掴んで、なるべく優しく引きちぎると――それを壁にかけられている《栄華を極めたかつての王と女王》の絵画へ向かって思いきり投げたのだった。
【ギャァァァーッ!!】
【キャァァァーッ!!】
唐突に引田が投げたド・ネ・ドネーンの固まりを勢いよく投げられ、それが見事に当たった王と女王の絵画達は辺りに響き渡る程の金切り声で悲鳴をあげる。
そして、その瞬間――【ネムロ】と【作り物の女王】の目線が絵画へと向けられた事を引田は見逃さなかったのだった。
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