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【ネムラ】と【ネムロ】の観覧車① ※ミスト・引田side

※ ※ ※ ――バサッ…… ――バサ、バサッ………… うるさい羽音が辺りに響き渡る。 眉を潜めながら、目を覚ました引田はガンガンと頭を揺さぶってくるような酷い頭痛のため、目だけを動かして周りの状況を判断するべく――辺りを見渡してみる。 すると、すぐ側で――困惑しているミストが引田の顔を心配そうに覗き込んでいる事に真っ先に気づいた。引田は、とりあえずミストが無事だという事を理解した為、心の底から安堵してしまうのだ。 ―――しかし、そう安堵ばかりもしていられない。 それは、かつて【夢見がちな女の子】と【ピンクのウサギの着ぐるみ】が支配していた観覧車内に、今は大量の醜い蛾の群集と、そいつらを取り纏めている【ネムラ】と【ネムロ】が観覧車内を優雅に飛び交いながら、意識が朦朧とし、鼻がむず痒くなる程の鱗粉を撒き散らしている現状から改めて思い知らされた。 ―――あの、【ネムロ】【ネムラ】やその幼虫だという蛾の群集が撒き散らしている鱗粉そのものをどうにかしないとダメなのだ。 しかし、先程の《かつての旧校舎の美術室の世界》で【ネムロの卵】をなんとか消し去った時とは――訳が違う。 あの時は《美術室の道具》と《作り物の王の首》を利用して、ピンチを凌いだ。 けれど、この観覧車内には――そもそも、利用出来るような道具などザッと見渡してみてみたものの存在しそうにない。 それに、以前は幾度となく助けてくれたエルフであるミストの杖も魔法も――今はない。 正に、意識が朦朧として弱っている引田とミストにとって絶対絶命の状態なのだ。

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