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【ネムラ】と【ネムロ】の観覧車② ※ミスト・引田side
「ヒ、……ヒキタ…………これ、ただのムシの鱗粉じゃ……ない。【変幻の魔法】がかけられてる……このままじゃ、こいつらの……仲間にされちゃう……どうにか……しないとっ…………」
「…………【変幻の魔法】!?」
―――そういえば、先程から腕が焼けるように熱い。
―――いや、それだけじゃない。
体全体がビリビリと痺れていて録に動かせないのは勿論の事だったが、先程までは普通の人間だった引田の腕は――ゆっくりとだが確実に目の前で優雅に飛び回っている【ネムラ】と【ネムロ】の羽のような姿に変化している。
まだ完璧に変化している訳ではないが、このままだと――ミストが言う通り【ネムラ】【ネムロ】の仲間となってしまうのも時間の問題だという事を確信した。
【あ~あ、本当だったら……こんな周りくどいやり方をしなくても、このニンゲンのお兄ちゃんと耳長エルフのお兄ちゃんを簡単に仲間に出来たのに……きっと、頭もよくて行動力もある君達は――この子達よりも美しい蛾の魔物になれるよ……ねえ、ネムロ?】
【ああ、ネムラの言う通りダ――てめえらは愚鈍な人間共と耳長エルフにしては、行動力も知性もある方だったからナ。一際、美しい俺の卵の中から生まれ変わるに違いなイ――そら、そろそろ人間と耳長エルフの姿でいるのも限界なんだろウ?】
ズリ――、
ズリ、ズリッ――
【おっと、まだ無駄な抵抗をしやがるのカ?ふん、そんな事をしたところデ……てめえらは、俺らの仲間になるしかないんだヨ!!】
【耳長エルフのお兄ちゃん……ネムロの言う通りだよ……君が、僕たちマイ蛾と同じ姿になったら名前をあげるよ……とびっきりのいい名前をあげる。そしたら、めでたく……マイ蛾の仲間入りだから期待して待っててよね!!】
ふと、ほふく前進をするかのように這いつくばって窓の方へ近付いていったミストが最後の力を出しきったといわんばかりに上体をゆっくりと起こしてから、いつのまにか手に持っていた布で鱗粉がついて真っ白く曇っていたガラス張りの窓を拭いた。
【あははっ……耳長エルフのお兄ちゃん、何をしているのかな!?マイ蛾の【鱗粉】の効果で、とうとう頭がおかしくなっちゃった?そんな事をしたって、この【観覧車の世界】からは逃げられないよ?】
【最後の悪あがきカ?耳長エルフ……もう、お前の頭には俺ら特有の触角が生えていル。それに――両腕だって、ほぼ完成体に近づいていル――今さら、悪あがきをしたところで無意味ダ】
【ネムラ】と【ネムロ】の優越感に満ちた愉快げな声が観覧車の中に響き渡った所で、ミストは再び力無く床に倒れてしまう――。
【ネムラ】と【ネムロ】ではないが、引田でさえもミストが何故そんな事をしているのか分からずに思わず首を傾げながら間抜けな表情を浮かべつつ、グッタリとしているミストの方をジッと見つめてしまった。
すると、引田はミストが何かを自分に伝えようと指を僅かに動かしているのが分かった。【ネムラ】と【ネムロ】に気付かれないように声は出していないため、その指の動きでミストが伝えようとしている事を察するしかなく、少し時間が立ってしまったが――引田はようやくミストが己に伝えようとしている事を理解した。
《窓の方を見てみろ》とミストは指の動きだけで引田に伝えようとしていたのだ――。
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