265 / 713

~【ネムラ】と【ネムロ】の観覧車からの脱出②~ ※ミスト・引田side

(ぼくの記憶が正しければ……確か、このへんにあるはず……っ……) 引田は、地面に這いつくばりながら、ある物を探していた。どんどん意識が朦朧としてくる。先程よりも頭痛が酷くなってきて、まるで重石を頭にズッシリと乗せているかのような錯覚に陥る。しかし、何とかその苦痛に耐えながら幼き頃の記憶だけを頼りに、観覧車の入り口のすぐ横にある開閉式の小さな扉に手をかけた。 ―――なかなか、開かない。 ―――少しコツがあるらしく何度か挑戦していると、ふいにあっけなく扉が開く。扉の中にあるのは、赤いスイッチだった。 引田は何の躊躇もなく、そのスイッチを操作した――。 引田が何の戸惑いも抱かなかったのは、かつて栄えていた遊園地の園長を信頼していたからだ。例え、故人となり魂だけとなっても未だに客を受け入れ――何よりも遊園地を愛していると確信しているからだ。 (この遊園地の園長は誰よりも客を愛してくれていた……確かに何度か事故は起こしていたけれど、それは園長のせいじゃない) (ルールを守らなかった客のせいだ……この観覧車内でルール違反の煙草を吸っていたせいだ――でも、園長はきちんと火事対策もしていたし客にも万が一の事があったら、こうしろと説明してくれていたのに……ありがとう、園長――ぼくには園長の客を愛する気持ちが届いてたよ) ブシャャャァー……!!! 引田が園長や遊園地に対する色々な想いを胸に抱きながら、スイッチを操作して少しすると――途端に観覧車内に勢いよく水が天井の方から吹き出してくる。 ―――それは、火事対策のために観覧車の天井に取り付けられたスプリンクラーの水飛沫だった。

ともだちにシェアしよう!