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~【ネムラ】と【ネムロ】の観覧車からの脱出③~ ※ミスト・引田side
ボトッ……
ポト、ボトッ……
引田が幼き頃の記憶だけを頼りに、スプリンクラーを起動させるためのスイッチを押した途端に観覧車内の四方八方に飛び散る程の水飛沫が悠々と中を飛び回っていた蛾の群集を襲った。
そして、【ネムラ】と【ネムロ】の自慢の子たちだと誇らしげに語っていた蛾の群集は水の勢いに耐えきれないせいか、次々と地面へと落ちていく。
引田はミストが意識を失ったままで、ある意味良かったとも思えた。何故なら、ミストは虫の形をした魔物が死ぬ程嫌いだと以前に言っていたからだ。それも、数が多ければ多い程苦手らしい。おそらく【ネムラ】と【ネムロ】の攻撃がなく、正気を保ったままのミストであれば今の状況を見た途端に――それこそ正気を失ってしまうに違いない。
しかし、そうとはいえ――ミストは、ほぼ蛾の姿に近づきつつあるのだから、そんな悠長な事も言っていられないのだ。
【ネムラ】と【ネムロ】は、やはり周りを飛び回っていた蛾の群集とは違い、少々の事では堪えないらしくスプリンクラーの水飛沫を浴びても地面へ落ちたりはしない。
しかし、まさか自分達の自慢の子供がこうなるとは予想しなかったらしく、先程の自信満々の顔とはうってかわって、鬼のような恐ろしい顔で引田をギロリと睨み付けてきた。
【ふんっ…………たかだか、こんな水ごときでネムラとネムロを追い詰めるつもり?残念でした~……ネムラとネムロは特別な蛾の魔物。例え勢いはあれど、単なる水飛沫ごときじゃ……っ……て……ネムロ、どうしたの?】
【うっ……ううっ……愚かなニンゲンめ……貴様……これは……これは…………単なる水飛沫なんかじゃねえナ!?】
―――【ネムラ】が引田を睨み付けて尚も自信ありげに言い放っていた最中、今まで優雅に観覧車内を飛び回っていた【ネムロ】が小刻みに体を振るわせている事に気付いた引田はニヤッと口許を歪ませて笑うのだった。
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