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【笛吹男】と【ピエロ的ゾンビ男】とミラーハウス ※サン・ガルフ・ライムスside

――ビシィッ!! ――ピシッ、ビシッ――!! サンにとって忌々しいニンゲンの奴隷商人へと変身した黒いライムスが――どんな強そうな武器よりも苦手な鞭をしならせ、音を出しながら此方へと近付いてくる。 今のサンの心を支配するのは、王宮に連れて来られるまで――ニンゲンの男の奴隷として過ごしていた日々の切ない呪われた記憶だった。 ―――膝がガクガクと震えてしまい、一歩も踏み出せない。 ―――それに加え、此処に連れて来られた時よりも尚一層のこと世界がグニャ、グニャリと周り続けるような気持ちの悪い感覚までもが精神的に弱っているサンを襲ってくる。 今のサンにとって――先程、ライムスを攻撃した白銀の鋭い爪よりも徐々に近付いてくるニンゲンの奴隷商人の男に変身した黒いライムスの方が数百倍は恐ろしいのだ。 ――ヒュッ……!! とうとう怯えきっているサンの目の前にまで来た黒いライムスが鞭を持つ右手を振り上げ、醜く顔を歪めながら怒りに任せて勢いよくサンの体へ向けて鞭を打とうとした時――、 【―――綺麗な瞳。そんなに涙を溜めて苦しそうに歪ませてるのなんか――もったいないくらい美しいよ?】 ―――フウッ サンにとって心地よい――懐かしい男の子の声が聞こえてきた。 ―――フワッ 【王子様のキスで――お姫様は目覚める――素敵だね、真実の愛ってやつだね】 ――フッ 【―――いつまで情けなく怯えてるの?】 【もう――此処にいるべきじゃないと――分かっているくせに――】 【その緑の子―――醜い侵入者のせいで――苦しんでいるよ?早く、早く――鏡を―――】 その懐かしい男の子の姿は真っ黒な鏡の中に移り、まるで楽しんでいるかのように消えては移り、消えては移るという事を何度も繰り返している。 ――王子様のキスで目覚める? ―――醜い侵入者? (この鏡に移る――あの方は、私に何を言いたんだ……っ……) と、そこでやっと――目の前にいる黒いライムスが己に向けて鞭をふるわずにいた事に気付いた。 しかも、黒いライムスの様子が明らかにおかしい。両手や両足がガクガクと痙攣している――。そして、よくよく観察してみるとライムスの体の中に小さい何かが侵入している事に気付いたのだ。そして、そのせいでライムスは体に異物感を抱いて――痙攣しているのだ、という事も分かった。 そうだ、ようやく思い出せた――。 ―――これは、キセイ虫の一種。 ―――《ドッペル虫》の仕業だ。

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