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【笛吹男】と【ピエロ的ゾンビ男】とミラーハウス ※サン・ガルフ・ライムスside

▼ ▼ ▼ ▼ そんなサンの怯える姿を暇潰しの余興のように、どこかの部屋から見つめる二つの瞳――。 ―――ひとつは、サンがメリーゴーランドで出会ったピエロのような格好をしている男の濁った灰色の瞳。 ―――もうひとつは、サンは出会っていないがピエロのような格好をした男の隣にいて白衣を着ていて赤と緑のストライプ柄の奇抜な丸眼鏡をかけている――もう一人の男の瞳。 【いやはや、本当に生まれ変わったキミの能力は素晴らしいよ――夢々(むむ)――おっと、失礼。キミは生まれ変わる前の名前で呼ばれるのは――嫌いなんだっけ?】 【―――いいえ、ダディ。貴方になら――アダムが忌み嫌っている前の名で呼ばれても、どちらでも本望です】 【そうか、そうか……本当にキミは素晴らしい。この笛で子供達の気を引いてメリーゴーランドへ誘い出すというアイディアを出してくれたのも素晴らしいが――何と言ってもドッペル虫の性質利用してヤツラを撹乱させる方法を思い付くとは、本当に素晴らしいよ】 ―――ドッペル虫。 その虫は、細長く――ニョロニョロしていて、先端が注射針のように鋭い。 しかし、恐るべきなのは姿そのものというよりも、その性質にあった。ドッペル虫は宿主の体内へと侵入すると、そのまま脳へと向かう。そして、その宿主の記憶を司る部分へと侵入し――食い散らかしてしまうのだが、恐るべきなのはここからだ。 宿主の脳に侵入し、記憶を司る部分を食い散らかしたからといって宿主は肉体的には死なない。むしろ、宿主にとって危険なのは肉体的というよりも、精神的なものが大きい。ドッペル虫に侵入されてしまい、完全に食い散らかされてしまうと肉体的には死なないが、精神的に死んだも同然になってしまう。 完全に食い散らかされた宿主は、ドッペル虫に良心を食い散らかされ――完全にドッペル虫の操り人形となりコントロールされ悪意や憎悪に囚われた禍々しい存在となってしまう。 ドッペル虫の完全なる支配から逃れるのは困難に等しいのだが、逃れる方法がない訳ではない。 非常にゆっくりと宿主の脳へと侵入していくため、出来る限り――早い内にドッペル虫を見つけ出し、それを駆除さえすればいいのだ。 【―――ダディ、ダディ!!この狼のお兄ちゃんが目を覚ましそう。早く笛を吹かなくちゃ――っ――】 【ああ、分かっているさ――夢、おっと――アダム。キミはその縫いぐるみに不死の口付けを―――】 「なっ…………何だ、貴様らは!?我輩に何をしたっ……!!?」 ――ピィィ~………… ――ピィィィィ~…… 二人の男が覗き込んだ場所にはガルフが寝かされていた。そして、彼が目を覚ますのと、白衣を着て奇抜な色の丸眼鏡をかけた男が手に持った笛を吹くのと――ほぼ同時だった。 異変に気付いたガルフが慌てて身を起こそうとしたのだが、笛の音色を聞いた途端に脱力し――再びグッタリと横たわる。 ―――チュッ ふいにピエロの格好をした男が――白衣を着て奇抜な色の丸眼鏡をかけている男から命令され、ある縫いぐるみへと口付けすると――そのドラゴンの縫いぐるみが命を吹き込まれたかのように大きくなり、そのまま横たわるガルフの方へと近付いてくる。 ―――ザシュッ!! そして、その白銀の鋭い爪で――横たわるガルフの腕を攻撃した。不思議な事に痛みはないのかガルフは横たわって苦しげにしているとはいえ、鋭い爪で攻撃されても眉ひとつ動かさない。 その腕の傷口からドッペル虫が己の体内へ侵入した、とは気絶している今のガルフには――知る由もなかったのだった。

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