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【笛吹男】と【ピエロ的ゾンビ男】とミラーハウス ※サン・ガルフ・ライムスside
甲高くて不快な声でサンの手から逃れようと激しく暴れているドッペル虫を逃がすまいと苦戦しつつ、サンは背中に背負っているリュックのような形の鞄へとドッペル虫を掴んでいない方の手を伸ばすと――いつも右ポケットに常備してある物を拙い手付きで取り出した。
そして、躊躇なくギラリと光る鋭く尖った先端をドッペル虫の本体の尻尾へと突き刺した。
【ギィッ………ミギィッ…………ギッ……ギァァァァ~!!!】
サンが背中に背負っている鞄から取り出した物――それは、己の大切な武器である、一本の弓矢だった。
サンの予想通り、性質が厄介とはいえ本体自体が脆いドッペル虫は先程よりも尚一層、甲高く部屋中に響き渡る程の叫び声をあげながら――サンの舌から離れて床下へとビクビクと痙攣しながらボトリと落ちる。
―――それだけではない。
サンがドッペル虫に舌を噛みつかれ、生理的嫌悪感に耐えつつも絶好の好機を待ち続けていた理由――。
それは、なにも――ただ単にドッペル虫に自ら舌を噛ませ、そして引きずり出してから本体を弓矢で攻撃したいから、というだけではないのだ。
――ギラリッ……
鏡の端に――再び、ドラゴンの鋭い白銀の爪がチラッと写り込んだのがサンには見えた。
そう、この時を――待っていたのだ。
再び、ドラゴンの白銀に光る鋭い爪が己を攻撃してこようとするのを――。
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