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【笛吹男】と異形なる者達のパレード
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サンは黒い鏡張りの子供部屋から出ると少しだけ元気を取り戻したライムスを両手に抱え、ひっそりと息を潜めて物陰に隠れる。
何故なら、この陰気な空気を漂わせている塔の廊下には相応しくないような軽快な楽器の音が自分達がいる場所から少し離れた方角から聞こえてくるからだ。しかし、その楽器の名まではサンもライムスも知る由もない。
その楽器は、この世界の物ではなく、【笛吹男】【ピエロ的ゾンビ男】【イビルアイ】が元いた世界であるダイイチキュウの優太達が通っていたのとは別の学校から持ってきた物なのだから――。
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【笛吹男】こと――笛木という男は元は【ピエロ的ゾンビ男】【イビルアイ】と同じ学校の教師であり、音楽を担当していた。
【笛吹男】は大人しく他人に流されやすい【ピエロ的ゾンビ男】こと――安達夢々というハーフの少年に目をつけた。夢々は【イビルアイ】こと――神崎という科学教師に目をつけられて、いびられていたため、それを哀れに思った笛木は優しく接してきたのだが彼は本心では夢々を愛してなどいない。ただ、主従関係として夢々を都合よく利用しているだけだ。
つまり、修学旅行に行く途中でスーツ姿の男に一方的に此方の世界へと飛ばされる前から――【笛吹男】と【ピエロ的ゾンビ男】の関係性は決まりつつあったのだ。
【笛吹男】は前にいた世界を退屈だと思っていた。己を変人だと言う周囲の人間達が間違っていて、己のやろうとしている事は間違っていない、とそう思い込んでいた。
【笛吹男】が前の世界でやろうとしていた願望――それは、人間と他の動物を合成させる事で新たなる最強な生物を生み出しそれを学会に提出して己の才能を世界中に認めさせるという――周囲の人間には到底理解しえない異常な考え方と歪みきった願望だったのだ。
―――しかし、彼の歪みきった願望に賛同する者が一人だけいた。
それこそが周りの人間から浮いていた存在――【安達夢々】だった。
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