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【笛吹男】と異形なる者達のパレード

外国人である母親と日本人である父親から生まれた夢々は、ただでさえ普通とは違う存在であるにも関わらず、それに輪をかけて転校生という立場だったため高校では浮いていた。 しかし、そんな彼にも唯一気の許せる存在が二人いた。一人はクラスメイトであり幼なじみの美々という少女であり、もう一人は周りから変人と言われている音楽教師の笛木だった。 どちらも夢々に対して好意的ではあったが、決定的な違いが一つあった。 それは、周りの人間から彼らに対する評価――。 美々はクラスの誰もが認める人気者――。 笛木はクラスの誰もが認める嫌われ者――。 次第に夢々は美々に対して、本当は彼女から嫌われているのではないか、と疑心と不安を抱くようになるが、それを決して表には出せず――やがて得たいの知れないモヤモヤした気持ちがどんどん募ってゆく。 そんな夢々の弱い心につけこんだのが笛木である。彼は、スーツ姿の男達の企みによって、修学旅行に行く途中で半ば強引に元の世界から今いる世界へと転移させられて最終的に、この塔に連れて来られた際に――このような話を夢々へと持ちかけた。 【―――夢々、もう今までのように自分の気持ちを押し込める必要はない。新しく生まれ変わろう――そして今までのような退屈でツマラナイ考えを持ったヤツラを見返し、大いなる偉業をこの新たなる世界で成し遂げよう――この世界でなら――いや、君と私となら絶対に上手くいく筈だ。夢々、私が君を新しく生まれ変わらせ――私の子供にしてあげるさ――君と私は一心同体なのだから】 ―――ギュウッ…… ――グサッ!! そして、異常な笛木の手に握られたナイフを心臓に突き刺された事により――人間の夢々としての記憶も肉体もフェードアウトした【ピエロ的ゾンビ男】は二度と死ぬ事のない不死の体を手に入れたのだ。 痛みと同時に悲しみという感情までなくしてしまった彼は、自然と頬に伝う涙の冷たさに気付く事もできずに【ピエロ的ゾンビ男】は【笛吹き男】によって突き刺されたナイフが未だにそのまま残っている継ぎはぎだらけの左胸への手を伸ばし――ソッと撫でるのだった。

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