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サンと【凶暴化したガルフ】との攻防
サンが己の望みを召喚魔物《湯血・笑爺》へと告げあぐねているのには訳があった。
《湯血・笑爺》がドッペル虫を捜索する―――そこまでは良いのだ。しかし、《湯血・笑爺》の捜索方法は対象に火を放つ事によって獲物を炙り出すという少々乱暴ともいえるもののため、必然的にガルフの体が炎に包まれざるおえない状況となる。
一時的、しかも―――割と知り合ったばかりであるガルフとはいえ、もしも正気に戻った時には、たとえ命は助かろうとも、確実に火傷――あるいは大怪我する事は目に見えている。
「ふぉっほっほっ!!ふがいないのぉ~…………わしを呼ぶ《捜索炎形魔法》を自らの口で唱えておきながらこの期に及んで……お主の望みを言う事に悩みを抱いているとは……そうさの、お主はそれほどに小さな器だったということじゃ~……お主が望まぬのなら仕方無い。わしは、これにて失礼するのじゃ!!」
―――ギュゥッ
「私の望みは―――ヤツの体からドッペル虫を捜し出すこと!!そして、ヤツを正気に戻すことだ!!」
固く拳を握り直したサンが――今度こそ、覚悟を決めて辺りに響き渡る程の大きな声で《湯血・笑爺》へと言い放った。
「ふむふむ~…………少々、願いが多いのぅ。まあ、この血の量ならば……あやつらを召喚しても問題ないじゃろう。《ヤマタノオロシ》よ――ワシの元に来るがよい!!」
――バシャンッ……
《湯血・笑爺》が未だに浸かっているサンの血溜まりを両手で掬いあげ、それを少し離れた場所へと軽く放り投げると――そこには徐々にボコボコと沸騰しながら姿を変えて最終的には真っ黒な巨大な八つ頭の蛇が現れて、そのまま真下にいる【狂暴化したガルフ】を見下ろしながら金色の瞳でギロリと睨み付けるのだった。
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