304 / 713
サンと【凶暴化したガルフ】との攻防
「ふぉっほっほっ……お主が願いを口にしたおかげで、やっとワシの能力を発揮できるわい。どれどれ、お主の頭から《記憶》を引き出すとするかのう。」
――ポチャ……チャポッ……
―――ボチャッ……
未だに血の湯に浸かっているかのような格好の《湯血・笑爺》が水音をたてながら、魔法書でしか見たことのない《ヤマタノオロシ》が急に現れた事にサ対して驚愕して呆然としているサンの目前へと迫ってきた。
「ちいと痛いじゃろうが……我慢、我慢!!お主の《記憶》……見せてみるがよい」
バシッ……!!
にい、と金色の歯を覗かせたまま愉快げに笑うと《湯血・笑爺》は右手でサンの頭を叩いてきた。
「…………っ……一体、何をっ……!!?」
割と手加減なく《湯血・笑爺》に頭を叩かれたサンが思わず目から涙を滲ませつつ文句を言おうと口を開いたのだが―――徐々に目の前に広がっていく光景を見て唖然としてしまう。
《湯血・笑爺》は、いつの間にか焦げ茶色の表紙の古ぼけた本を手に持っていた。そして、相変わらず飄々とした笑みを浮かべている彼の周りを取り囲むように――彼によって乱暴に千切り取られた本のページが金色に光り輝いているのが分かった。
その光輝く一枚一枚のページには、かつてサンが王国に連れて来られる前の惨めでみすぼらしい奴隷時代の時の姿や【イビルアイ】と出会った時に鏡に映った少年と王国に来たばかりの自分の姿――そして、ミストやナギやユウタやマコト達と行動を共にする自分の姿等が代わりがわりに真っ黒な墨で描かれていくのだった。
それを軽く見ただけで《湯血・笑爺》の能力が恐ろしいと、サンは改めて感じた――。
《湯血・笑爺》に己の記憶の全てを見透かされる前に何としてでも、《ヤマタノオロシ》に睨み付けられたせいで一時的に石のように動けなくなっている【狂暴化したガルフ】を早急に救わなくては―――。
ともだちにシェアしよう!