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~サンの失われる記憶について~

「よし、ワシは決めた……お主からは、この《記憶》を頂くとしよう。本来ならば勝手に貰うところじゃが……お主の血の湯は幾年かぶりに心地良かった故、お主の意見を聞く事にしようじゃないか」 《湯地・笑爺》が、じれったそうにしているサンよりも先に口を開いた。そして、目元には白い布がグルグル巻きにされており、普通ならば見えない筈にも関わらず――周りを取り囲むサンの何個もの《記憶》の絵が描かれた金色の紙をいとも簡単にヒョイッと取ると――そのまま、サンへと確認してくる。 「待ってくれ……概ね、そいつに関しての《記憶》を失う事に了承はする。だが、少しだけ条件を出しても構わないか?」 「よいよい――お主の条件とやらを聞いてやるとするかの。どれ、ワシに耳打ちするがよい」 《湯血・笑爺》の耳が何処にあるのだろうか、とサンは少し迷ってからコソッとある言葉を耳打ちする。すると、《湯血・笑爺》が満足げにニヤッと笑ってから頷くと――そのまま、これからサンが失う事になる《ある者の記憶(ただし条件付)》が描かれている金色の紙をポイッと口に放り込み、ムシャムシャと豪快に食べ始めてしまうのだった。 その後、選ばれなかったサンの《記憶》が描かれた金色の紙がパラパラと床に落ちて行く。そして、それは――身動きが取れなくなっている【狂暴化したガルフ】とそれを見下ろしている《ヤマタノオロシ》の周辺にどんどんと散らばっていくのだった。

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