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【赤ずきん】と森の迷路とスノードーム ※優太・誠side
「あ、あの…………僕と同じような服を着た……男の子を見ませんでしたか?名前は、誠っていうんですけど……」
かつて過ごしていた病院にあるような無機質で白いベッドに寝ていた僕だったが、誠がいない事に気付き、居てもたってもいられなくなったため慌てて体を起こし、少し灰色がかった椅子に座っている影絵のように黒い女の人へと遠慮がちに話しかけた。【赤ずきん】とは、おそらく僕と誠をこの奇妙な世界へと引きずり込んだ――あの顔のない不気味な女の子の事なのだろう。
もしも、そうであれば、今――目の前にいる黒い女の人は僕らにとって【敵】という事なのだろうか?
―――コト、
【とりあえず、これでも飲んで落ち着いて?私はあなたに危害を加えるつもりはないから。あなたのような服を着た男の子――その子は狼にさらわれてしまったの。あそこを、見て――森が見えるでしょう?】
【今なら、まだ間に合うかもしれないわ。もしもその男の子を探すのなら、あそこの森にお行きなさい。でも、気を付けて――あそこには、おそろしい黒い狼と、三人娘がいるから。私から――《娘の笑顔》と《色を見る目》を奪ったあの三人娘と黒い狼――お願い、出来る事ならあの三人娘と狼を倒して――《娘の笑顔》と《色を見る目》を取り戻して私に返して欲しいの。】
黒い女の人から渡された白いコップを少しだけ躊躇しつつも、流石に拒んでしまうのは失礼だと思い直してから受け取った。中に入っているのは透明だが、仄かに甘い香りが漂ってくる。勇気を出して飲んでみると、その透明な飲み物は温かい。その甘さも相まって、誠がいない不安と恐怖によってガチガチに緊張した僕の心を――ほんの少しだけ落ち着かせてくれた。
そして、少し落ち着きを取り戻した僕は黒い女の人が見つめている方向へと目を向ける。そこには、黒枠の窓があり――その向こうには黒い木と灰色や白い様々な形の草が生い茂る森の光景が広がっているのだった。
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