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【赤ずきん】と森の迷路とスノードーム ※優太・誠side
――ザワッ
―――ザワ、ザワッ
今まで静寂に包まれていた森の中に強い風が吹き付ける。そのせいで、木の葉が互いに擦れあう音が僕の耳に入ってきた。
いや、それだけじゃない――。
【キャハハハッ―――はやく、はやくドリアードの、さんどめのしつもんに……こたえないと、たいへんなことになっちゃうわよ?ねえ、そうよね……キッコとノッコ?】
【コッコのいうとおり、いうとおり。はやくしないと、おにごっこもできないじゃない、できないじゃない!!はやく――はやく―――こたえてよ、おにいさん、おにいさん!?】
【いちどめゆるす―――ドリアード。にどめもゆるす――ドリアード。さんどめすぎたらゆるさない、ゆるさない。かのじょがすきな、おとこのこ――いずみのなかへ――まっさかさま!!】
真っ白な雪が降り積もった木にとまっている三羽の真っ黒な小鳥が――【三人娘】にソックリな声で囀りながら歌うように言ってくる。
『ドリアード――綺麗な女の人に見えるけど、森に危害を加えようとしたり、彼女の怒りをかってしまったり、問いかけに答えられないと彼女の好きな美少年とか侵入者は――泉の中に引き摺り込まれちゃって、そのまま一生中から出られない。森の中に永遠に閉じ込められちゃうんだ……怖いよね~………』
フッ――と幼い頃の想太の声が頭をよぎる。
【あなたが落とされたのは《愚者》ですか?】
【あなたが落とされたのは《世界》ですか?】
これが、【彼女】からの三度目の質問だ。
もう、後がない――。
その時、幼い頃の想太との思い出とは別に――ある事が僕の頭をよぎる。しかし、それを思い出した所で中々、【彼女】三度目の問いに答える勇気が出ないのだ。もしも間違えてしまえば、スノードームどころか――愛しい誠らしき少年も僕でさえも――この不気味な森から出られないのだから。
(早く……早く答えなきゃ――仏の顔も三度までっていうし……これ以上、ドリアードを待たせて怒りをかうような事があれば、彼女は何をするか分かったもんじゃない……でも、でも……もしも僕の考えが外れたらっ……みんな……ずっと森の中で永遠に閉じ込められるっ……)
――ああ、いつもの悪い癖だ。
――肝心な時に《勇気》が出ない。
『まったく……てめえは、相変わらず情けないな。男なら俺様みてえに腹くくっちまえ!!いつまでも、うじうじしてんじゃねえよ。』
『何を迷う事がある――?お前自身が決めた事なのだろう?』
『優太くん――いつまで悩んでるつもり?木下誠が―――君の言葉を待ってるよ?』
『ユウタ――マコトが――ううん、マコトだけじゃない。キミの大切な人達がキミの言葉を待ってる!!キミが救ってくれるのを皆が待ってるよ?ミスト達は――キミを信じてる……だからっ……』
この不気味な森にはいない筈の――少しの間、離れただけだというのに懐かしい大切な仲間達の励ましの声が聞こえてきたような気がして、僕はギュッと固く手を握りしめる。
そして、未だに僕の涙から出来た泉の上に優雅に浮かんでいる【ドリアード】を真っ直ぐに見据えると、不安と恐怖から小刻みに震えてしまう唇をゆっくりとだが開くのだった。
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