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【赤ずきん】と森の迷路とスノードーム ※優太・誠side

【わたくしの役目は終えました。本来の仕事に戻ります―――それと、正直者で賢いあなたに、ささやかな贈り物を授けましょう】 「お、贈り物……?」 【わたくしの慈愛なる包容を――この可愛らしい少年へ贈ります。決して邪なる気持ちはございませんので――御了承くださいませ】 ―――スゥッ…… そう言うと、まるで少女が好むような絵本に出てくる美しい女神の姿を取り戻した【ドリアード】が、穏やかな笑みを浮かべたまま、とある場所へと移動する。 そこは、つい先程までは存在していた筈なのに、いつの間にか消えていた泉の中央付近だった。 真っ白な雪の上で倒れている王宮の警備服を着ている過去の誠らしき少年の元へ移動した【ドリアード】は蔓で覆われた両腕で、ぐったりと倒れている彼を愛おしそうに抱きかかえると――あろう事か、そのまま柔らかそうな唇へと軽く触れるだけとはいえキスをしたのだ。 「ち、ちょっと……な、何をっ……!!?」 【―――これで、わたくしからの贈り物は終わりです。どうか―――お気をつけくださいませ】 ―――その言葉を最後に【ドリアード】は周りの木に同化してしまったかのように――忽然と姿を消したのだった。 「……いっ……いってえ……何だよ、ここは!?おい、そこのお前……一体……ここは何処なんだよ!?」 「ま、誠………っ……!?よかった………僕、誠がもう目を覚まさないんじゃないかって……心配したんだよ!!」 ―――ギュッ!! ふと、過去の誠らしき少年が目を覚ました事に気付いた僕は慌てて彼の元へと駆け寄る。その時、雪に何度か足を取られて転びそうになったが、そんなことなど気にならないくらいに一目散に少年へと近づくと、そのまま抱き締めてしまったのだった。 ―――だから、僕は気付かなかったのだ。 ―――誠らしき少年が怪訝そうな顔つきで僕を見つめていた事に。

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