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【赤ずきん】と森の迷路とスノードームからの脱出 ※優太・誠side
「君は――いや、君ら三人娘は本気で僕らを襲うつもりはなかった筈だよね?僕らを始末しようと思ったのなら、今までに幾らでもチャンスはあったはず――でも、それをしなかったってことは―――君らは―――ただ単に、黒いお洋服を着た男とその仲間達の命令に従っただけなんじゃないの?」
【あたしは――あたしは――ただ、あったかくさせてくれるものがほしがっただけ――だから――あのくろいおようふくをきたおにいさんたちの――いわれたとおりにしたの、したのに―――さいごまで――あったかくさせてくれるもの――てにいれられなかった――】
―――そこまで言うと、いちばんしたのむすめのコッコは赤い屋根の中にいる家族らしき人物たちを羨ましげに見つめる。
(―――そうか、彼女が欲しがっているもの――それは、あたたかな愛情だ―――)
目線だけで涙ぐむ彼女の行動を観察していた僕は一旦、ぎゅうっと抱き締めていた彼女の体からソッと離れる。
【このマッチ――かってくれるひと――さいごまで――だれも、みつけられなかった―――】
すっかり炎が消えてしまった魔法の蝋燭を地面に置くと、出会った頃の彼女とは別人のようにションボリとした様子でポツリと呟く。
「そのマッチ―――僕が買うよ。でも、その代わりに約束して欲しいんだ。いいかい、寂しいからといって――無闇やたらに人を信用しちゃいけない。黒いお洋服のおにいさんのように――悪い人もいるからね。それと…………」
「他の人から物を盗んじゃダメだ。例えそれが誰かからの言いつけであろうと―――それだけはしちゃいけない事だよ。それが分かったら、マッチを買うよ――だから約束して?」
三人娘のいちばんしたのコッコは、コクリと小さく頷いた。そして、真っ黒な女の人から盗んだ《本物の赤頭巾》を僕に渡してきた。
【これ―――あの、くろいおんなのひとに――かえして、かえして――あたしはできないから―――あたしは――くろいおようふくのおにいさんに――たべられちゃうから―――だからっ―――!?】
―――ぎょろり、
ふと、彼女が話している途中に上の方から悪意が込められた強い視線を感じて、慌てて僕は空を見上げる。
ふたつ、いや―――それ以上の【悪意が込められた目】があった。灰色のドンヨリした空が広がっている筈のそこは溶けた硝子のようにグニャリと歪んでいるため、じいっと見つめていると気分が悪くなってしまいそうになる。
―――おそらく、【くろいおようふくのおにいさん】と【そのおとこのなかまたち】の悪意ある目線なのだろう。
「おいっ…………危ないっ―――逃げろ!!」
―――グシャッ!!
マーロンの慌てた声が聞こえ、そしてその直後――何かを握り潰す音が聞こえてきた。
今まで目の前にいて―――ションボリとした彼女がいない。
まるでアニメに出てくる悪魔のように【大きな黒い手】が彼女を捕らえ――そのまま上へ、上へと消え去ってしまった。
【ばりっ……ばり――ごくんっ…………】
グニャリと歪んで硝子が溶けてしまったかのような異様な灰色の空の方から、とても嫌な音が聞こえてきたせいで僕は両耳を必死で塞ぎ――その不快な音を必死で遮断しようと試みるのだった。
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